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最終話
「まず、円果は誰といたんだ?」
意識が戻った時、俺は秀志に腕まくらされる格好でベッドに寝ていてさっきまでの事を色々と聞かれた。
そこで永志郎という男の話をするとやっぱりと言われた。
「どういうことだよ」
「円果が一緒にいたのって若い時の死んだ爺ちゃんだ」
「は?!」
「この前さ、実家帰ったろ?その時、爺ちゃんの墓参りしてその日の夜に爺ちゃんが夢に出てきたんだよ」
その夢というのが、もたもたしてたらハロウィンの日に恋人取っちゃうぞって言われたらしい。
「多分、俺の見合い話に爺ちゃんがカマかけてきたのかも。勿論、見合いは断るつもりだった。俺には円果だけだしその気持ちは今も変わらないから。でも、最近お前ちょっとよそよそしかったし、ちょっと自信無くしてたのもあったりで……」
「実は俺もそうだった。秀志とずっと一緒にいたいけど、お前の幸せ考えたら見合いして普通に幸せに……って。だから電話では何も言えなかった」
「何言ってんだよ、俺が第二ボタン渡した時からずっと想いは変わらない。これからも一緒にいたいし円果と幸せになりたい」
お互いが腹を割って話したら同じ悩みで、でもそれはお互いを想うからこその悩みだった。
「円果、俺達は結婚は出来ない。だけど、誓い合うことだって指輪を贈る事だって出来る。俺達の意思がしっかりしてたら婚姻届なんていらないだろ?」
まるでプロポーズのような言葉に胸が熱くなる。
「だから、俺が円果を愛しているのは今までもこれからも変わらない。だから、ずっと一緒にいて欲しい」
「秀志……それって」
「プロポーズだよ。証がなくたって俺達は運命によって繋がってるんだ」
そう言って俺の左手を取ると、ゴールドのシンプルな指輪を薬指に通す。
その指輪はまるで誂えたようにぴったりと俺の薬指にハマった。
「これ、どうしたんだよ」
「この指輪、実は俺の爺ちゃんが円果の爺ちゃんに贈るはずの指輪だったらしい」
「え……」
「夢に爺ちゃんが出てきた時にこの話もしてたんだ」
それは、当時は親が決めた見合い結婚が殆どで、ましてや同性の恋愛なんて認めてもらえず、愛し合っていた爺ちゃん達は泣く泣く別れたと。
それから別れた後お互いが見合い結婚して、俺の爺ちゃんは親父が生まれたすぐ後に他界したらしい。
まだ二人が付き合っていた頃、いつか渡そうと買っておいた指輪を結局は処分出来ずにずっと持っていのがこの指輪なのだと。
もしも、今の時代に二人が生きていたら幸せになれたかもしれないのに運命て残酷だ。
「それでさ、爺ちゃんの部屋の押し入れの天井に金庫があるからって、夢でご丁寧に暗証番号まで教えてくれてさ……その指輪を託すから、お前はまーくんと幸せになれって言われたんだよ」
「なんか……嘘みたいな話だよな」
「だろ?だから、半信半疑で天井漁ったらマジで金庫あってさ、もしかしたら円果に会いに行くのも本当なんじゃないかって」
仮にも死んでる人がこの世に現れる事なんて本当にあるのか……
俺は霊感なんて全くないし、永志郎さんは確かに存在してた。
「でも、そう言えば永志郎さんの手……凄く冷たかった」
「ハロウィンの日ってあの世とこの世の境目がなくなるって聞いたことある……お盆のようなものだって」
「だから……」
「あのさ、爺ちゃんになんかされてないよな?」
「なんか?」
「キスされたりとか…どっか触れたりとか……」
「口ん中に指入れられた」
「はぁ?!」
「……ごめん。俺も酔ってて自己責任でもある」
永志郎さんにされた事は本人も本気じゃなかったはず。
きっとはっきりしない俺達を引き合せる為にちょっかいを出した程度だったんじゃないかなって、そう思う事にした。
「もうするなよ」
「いや、もう二度と会えないだろ」
「爺ちゃんのことだから分からない」
「確かに」
二人で笑い合って、指輪に視線を落とすと秀志の手が俺の手を包んだ。
「円果、爺ちゃん達の分まで幸せになろうな」
「……そうだな」
永志郎さんが成し遂げられなかった想い。
その想いの分まで俺は秀志を愛していこうと思う。
ずっと、ずっと……永遠に────
END
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