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ジレンマ
「──食べる?」
「んー……、じゃあもらう」
「ここの、美味いよな。普及したいけど、それで売り切れになっちゃったら困るし、ジレンマっつーか」
俺の手からアップルパイにかぶりついた後輩は、目を伏せながら、口の端についたカスタードクリームをぺろりと舌で舐めとった。
……うおぉ、こういうときの美形ってこわい。
不覚にもちょっとドキリとして、そんな自分がイヤで認めたくなかったから、視線をそらした。
「ねえ先輩、ハロウィンって、なんなんすかね。みんなコスプレしたいだけじゃないっすか。ねえ?」
「お? なんだ、むしろアンチだったの、お前。意外だわ。ま、あれだろ、日本でいうお盆みたいな……。しんみりするより騒いだほうが楽しいじゃん。俺もよく分からんけれども」
俺がこいつとこうして話すのは、週に数回くらい。
それ以外では、学年が違うということもあって校内ではあまり会わないし、もし擦れ違ったとしても挨拶すらほとんどしない。
第三者から見れば全く接点がない俺たちが、実は屋上だとわりと普通に喋ってるなんて、何だか少し変な感じがしなくもない。
「じゃあ……、このニセモノばっかのコスプレ大会に、ホンモノが混ざっててもおかしくないっすね」
「えー、ははっ、なんだそれ。お前も案外ノリノリじゃんか」
思わず笑って言ったら、ふと、微笑んだまま俺を見つめる紫乃と視線が絡んだ。
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