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【27】「今なら許しても良い」

「…???今、何」 男は笑いながら鍵盤を占領する。 何をした貴様と続けようとしたが、男の奏でるメロディーに口を閉ざす。 多少アレンジを加えながら流れるムーンリバーに、通行人が足を止める。 淡く笑みを浮かべる唇が小さく、メロディーに合わせて歌を口ずさむ。 甘美な音色に錦は夢心地になり耳を澄ませた。 ―――…時が止れば良いのに。 そうしたら、男の側にいることが出来る。 瞳を閉じて男の奏でる音を取り零さない様に拾い集めた。 「――そんな悲しそうな顔されたら罪悪感で夜寝れなくなるよ。」 演奏が終わっても散歩から帰りたがらない犬の様にピアノ椅子から離れようとしない錦の頭を撫でる。 「何か弾く?連弾できそうなの何かあるかな?僕としてはラッキー助平的なハプニングが起こる様なやつが良いんだけど。」 意味は分からないが、恐らく何らかの事故的な偶然で接触が出来たらと言う男の冗談だろう 「…別に、そんな偶然装わなくても触りたいなら触れば良い。 あまりベタベタされるのは好きじゃないが、頭を撫でたり抱きしめるくらいなら別に構わない。 今なら許しても良い。言い換えれば今しないなら今後もう機会は無いと言うことだ。」 夜の暗がりなら勇気を出して言うことが出来ても、 こんな明るい互いの顔が見える場所で今すぐ抱きしめろだなんて言えるはずはない。 男が暗闇に突然照明を当てられた猫のように目を丸める。 「君も大概気まぐれだな。」 何も言うな早くしろ。 「お前と違い時と場所をわきまえているだけだ。」 コテリと首を横に傾げ頭を差し出す。 頭を撫でろと言う無言の要求に男は笑いながら応えた。 「夏休みが終わらなければ良いのになぁ。」 頭を撫でながら困ったように笑う男に、お前がそれを言うなと少しだけ悲しくなった。

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