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【1】「時間の概念」

――紀元前1500年頃日時計が発見され一日が24時間なのは エジプトの12進法が元である。 ずきずきと脈打つように痛む頭を抱えて、 担任教師の岩野から聞いた言葉を思い出した。 「元をたどればメソポタミア文明の基礎を築き上げ繁栄させたシュメール人が確立した60進法が影響している。 よって岩野先生の12進法が元であるという発言は的確と言えないのではないだろうか。」 ソファに置かれたクッションに凭れながら何となしに口にした言葉に、アイロンがけをしていた男が顔をあげた。 「なに、コーンポタージュ味のハッピーターン??そんなの有った?うまい棒と間違えていないかい?」 「うまいぼう」とは何だと聞けば男は棒状のスナック菓子だと説明をした。 「今度君が頬張っている所をみせてよ」と言うが 何というか悪い顔をしていたので、きっと碌な事を考えていないと断言できる。 「何処をどう間違えればスープや菓子に聞き間違えるんだ?やはりあの響きか?メソポタミア文明だ。 二文字しかあっていないじゃないか。」 「あぁ、時間の概念か。1日24時間は12進法、1分60秒は60進法が元となってるって話?」 「見直したぞ誘拐犯。そのことに関して俺は考えていた」 「…あぁ、そう。で?岩野先生って?」 「現在の担任教師だ。始めてあの男に出逢ったのは俺が小学二年生の時だった。 簡単に説明をすれば、エジプトが大好きなのだがシュメール文明を蔑ろにしている不良教師だ。」 「君位の年ってそんな難しい話するの?」 「小学二年生の時に担任教師が休んだ事がある。代理で授業を受け持った岩野先生の6割が雑談でな。その時の発言だ。」 算数の授業中に時計の読み方を習っていたのだが、話しが脱線し気が付けばエジプト文明 へと流れ着いていた。最終的にはクレオパトラの話で一人盛り上っていたのを生徒全員が口をぽかんと開けて聞いていた。 「彼がエジプトを好む理由はクレオパトラと言う女が影響している。 要するにただの助平男だ。」 「…スケベに不良って」 男がぶふっ噴き出す。 何が可笑しいのか理解できない。 「持ち物検査で女子からハンドクリームを没収した癖にそれを私物化したり、 他のクラスの教師の落とし物である蛍光ピンクのチョークを無断で使用していた。 蛍光ピンクのチョークは自腹で購入したものだろう。 それなのに、返しもせずに私物化するとは悪い男だ。」 「楽しそうだね。」 「別に楽しくない。遺失物等横領に値すると警告したら 先生は――いや、あの男、何といったと思う? 『ならこのチョークの持ち主は俺に謝礼をしないといけないので、 どちらにせよこれは俺の物になる』 などと屁理屈をこねたんだ。馬鹿め。 謝礼は落とし物の5%から20%だ。落とし物のチョークの価格で計算しても 彼が横領したチョーク分には値しない。…誘拐犯、今すぐ前言撤回しろ。 俺は彼が嫌いだ。助平で不良など最低だ。 彼に関して楽しいと思う時が来るとしたらそれは解雇された時だ。」 「はははは。君は本当に面白い子だね。」

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