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【2】「矛盾している。」

話をもどそう。 一日は24時間となったわけだが、これは不変で有り続けるのだろうか。 地球の自転速度の変化により僅かでも時差が生じれば24時間が変化する事になる。 しかし実際時差が生じても「一日は24時間」という概念がそのまま存在し続ければ、どちらにせよ錦が生きている間は「24時間」であることは変わらないのだろう。 「額に汗滲んでるけど、大丈夫?」 何だか頭痛が酷くなってきた。 頭痛とは症候性頭痛と機能性頭痛に分かれるが、錦の場合は明らかに後者だ。 さて、ここで問題なのはこの頭痛をどうやって治せば良いのか。 乱れる思考でぼんやりと考える。 「頭痛い。」 「ちょっと冷やそうか。」 男が額に掛かる髪を指でつまむが、摘まんだ先からするりと零れ落ちていく。 「気安く触るな」 「髪の毛柔らかいなぁ。」 「だから…」 人の話を聞け。 「嫌がられると余計触りたくなるね。」 …何て性格悪い奴だ。 何だか面倒になり、持ち上げた両腕をぱたりと落とした。 「おっ、抵抗はもうお終いかい?つまんなーい。」 腹が立つ男だ。 「錦君、痛み止めあげようか?」 「要らない。それより俺は考え事をしているんだ。少し黙っていて くれ」 何が言いたいかと言えば、一分とは60秒で有り一時間は60分。 一日は24時間だ。 一昨日も昨日も今日も明日もそれは変わらないのに。 「え?何だい。無視?無視なの?」 一日が早く過ぎる気がする。 あっという間に過ぎていく気がする。 否、気の所為ではない。 朝起きて海を眺めて、男と出かけて夕方海を見て男と別荘へ戻れば 夜なのだ。 結果夜寝るとき「一日があっという間に終った。」と感じるのだ。 そうして気が付けば夏休みが半分終わった。 一日24時間があっという間に過ぎる。 一週間が早く感じる。 この様に時間経過が早く感じるのは、脳の情報処理速度が関わっている。 「矛盾している。」 「なに?」 「脳の情報処理速度に関しての疑問だ。」 「ん??」 「一日は24時間だ。昨日も一昨日も変わりない。それなのにあっという間に時が過ぎる。 しかし実際は時間経過の速度は変わらないのだから、 錯覚と言うこととなる。では、何故錯覚を抱くかと言う疑問の回答は 心拍数に基礎代謝、ジャネーの法則、そして脳の情報処理に関係している。」 ジャネーの法則は、時間の心理的長さは年齢に反比例するといったものだ。 50歳と5歳の人間の一年では、前者は五十分の一後者は五分の一となる。 年を取れば時間が早く感じると言いたいのだろう。 「要するに同じ時間でも此処まで心理的時間の違いが生じるのは、 子供の脳は大人と違い人生経験が少なく処理する情報に時間がかかるからだ。」 「君幾つ」 「10歳だ。お前と俺の心理的時間の違いを計算したいので、年齢を教えてくれ。」 「永遠の15歳だよ!!僕は15歳の頃から年を取らないのさ。」 どさくさに紛れて年齢を聞いてみたが、この阿呆…失礼、この男が真面目に答えるとは思えない。 脱線した思考を修正する。脳が情報を受けた時の処理速度に関してだ。 初めての体験、つまり脳が受けた情報が記憶にない新しいものと区別された場合、処理に時間がかかるので時間間隔が長く感じるのだ。 繰り返す日常とは違う時を過ごした場合、体感時間が長く感じると言う話になる。 例えば、男と商業施設に出かける際の道のりだ。 見慣れた景色 をやり過ごすのでここにきて二週間目で始めて外出した時と比べて、 交通時間は短く感じたような気はした。 すでに記憶している情報を処理するので時間間隔は短く感じる、と言うことだ。 成程、これは分かる。 一人頷く。 しかし、それなら俺はもっと一日を長く感じても良いはずだ。

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