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第8話 目覚めた場所は...

ズキンという頭の痛みで僕は目が覚める。 思考がままならないまま、自分の今居る場所を確認すべく身体を起こして周囲を見渡す。 「どこ.....」 ふわっという手触りを感じ、よくみると僕はベットの上で寝ていた。 ご丁寧に服を着替えさせられ、毛布までかけられて。 着せられている服は僕が持っているものではなく、少し大きめの長袖だった。 部屋は少し大きめで、タンスや時計など日常生活で使うものがおかれていた。 僕はゆっくりと体を動かし、地面に足をつく。 慎重に立って、歩こうとするが体がだるく、重い。 その上に頭痛ときたもんだから、何かしらの病気にでもかかったのかと考えた。 周りを見ながら歩くと、左側に扉があった。 キィ....と扉を押して、顔を覗かせる。 すると、声がかけられる。 「...あ?あぁ、起きたのか。」 声のするほうを向くと、そこにはソファに座って携帯をいじっている諒がいた。 「...あ、の。ここ、どこですか...?」 「俺ん家。」 ? どうして僕は諒の家にいるんだろうか。 そういえば、昨日は何していたんだっけ? ――――――そうだ。 僕は昨日の出来事を思い出した瞬間、心臓が早いスピードで動き始める。 ....結局、あの後どうなったんだろうか。 全く記憶がない。 確か、カーテンから日が差していて,,,足音が聞こえて.....?? それから......、それから.........。 思い出せない。 僕が何もせず、扉の前でぼぅ、と立っていると 「....お前何してんの?何でそこにつっ立ってる訳?」 「え、あ....、えっと...どこに居ればいいですか...?」 「....隣来れば」 そう言って、諒はまた携帯に視線を戻す。 僕は言われた通り、諒の隣に座った。 とてもふかふかしていて座り心地の良いソファだと思った。 ただ、隣に座るとさらに気まずくなってしまった。 何か話しかけるべきか、昨日のことを質問すべきか悩んでいると、諒が口を開いた。 「...お前昨日丸一日ずっと寝てたぞ」 「え?……嘘、ほんとに…?」 どうやら昨日は一日中寝ていたらしく、僕が昨日と思っていた日は一昨日のようだ。 「お前の親にはお前の携帯で連絡しといたからな。」 「あ、あぁ…そう。別に…やらなくてもだいじょぶだった、けど……、」 小さくそういうと「あ?」と機嫌悪そうに諒が聞き返す。 多分、わざわざやってやったのになんだその言い草は、と思ったんだろう。 「あ、いや……その、別に連絡しなくても親は何とも思わないから…さ」 はは、と笑いながら説明する。 諒は僕の方を見ず、視線を携帯に向けながら無言で僕の話を聞いた。 そしてまた沈黙が訪れる。 取りあえず、帰ると伝えるために口を開く。 「あ...の、諒。僕そろそろ....」 帰るね、と言おうとした時。 「な~、諒ぉ~。僕の財布知らな~い?」 部屋の奥から声がした。 ふと、顔を向けると、一人の大人の男性が立っていた。 茶髪の髪に、クセっ毛。目は垂れ目の緩そうな雰囲気。 羊のようなクルンと丸まっている角を持っていた。 「ねぇ~、聞いてる...ってあれぇ?誰その子...。諒のお友達かなぁ?名前、何ていうの?」 僕に気がつくとニコニコと笑いながら近づいてくる。 「あ...、えと、零です。」 「へぇ~、零ちゃんっていうんだぁ~...。僕は(ユウ)。よろしくねぇ零ちゃん?」 ...ん?ちゃんって僕もしかして女と見られてる...!? 訂正しようと口を開こうとした瞬間、優さんが僕の目の前に来る。 そして、えへと笑いながら僕の前でしゃがみ、手を差し伸べられる。 その行為に僕は硬直する。 今まで僕は握手をしたことがなかった。 この容姿のせいで誰にも声をかけられず、仲良くしようなんてことは一度もなかったからだ。 僕は遠慮気味に伸ばされた手を握る。 「よ、よろしく...お願いします...?」 そんな小さな挨拶でも優はニコリと笑ってくれた。 結局性別の訂正は出来ず、まぁそんなに関わることもないだろうしいいか、と思ったので何も言わないことにした。 それからは沢山の質問をされた。 「ねぇ、零ちゃんは諒と同級生なのぉ?」 「あ...はい、一応」 「そうなんだぁ~。じゃーさ、僕はいくつ位に見える?」 「え...えーと...、20歳位ですかね...?」 「あはは、そんなに若く見えてるんだぁ~、なんだか嬉しいなぁ。これでも僕、25なの。...ってそんなに変わんないかぁ」 そんなやりとりを繰り返している中でも諒は僕の隣で携帯ゲームをしていた。 少し喋っていると誰かの着信音がなった。 音的には僕のではないし、そもそも僕の携帯が今どこにあるのかわからない。 誰のだろうとあたりを見渡していると 「あちゃ、もう時間だぁ....。ごめんね零ちゃ~ん、もう行かなきゃ....」 どうやら優さんのものだったらしく、ごめんねと謝るポーズをした後に電話に出ず、早足で部屋から出て行ってしまった。

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