8 / 21
第8話 目覚めた場所は...
ズキンという頭の痛みで僕は目が覚める。
思考がままならないまま、自分の今居る場所を確認すべく身体を起こして周囲を見渡す。
「どこ.....」
ふわっという手触りを感じ、よくみると僕はベットの上で寝ていた。
ご丁寧に服を着替えさせられ、毛布までかけられて。
着せられている服は僕が持っているものではなく、少し大きめの長袖だった。
部屋は少し大きめで、タンスや時計など日常生活で使うものがおかれていた。
僕はゆっくりと体を動かし、地面に足をつく。
慎重に立って、歩こうとするが体がだるく、重い。
その上に頭痛ときたもんだから、何かしらの病気にでもかかったのかと考えた。
周りを見ながら歩くと、左側に扉があった。
キィ....と扉を押して、顔を覗かせる。
すると、声がかけられる。
「...あ?あぁ、起きたのか。」
声のするほうを向くと、そこにはソファに座って携帯をいじっている諒がいた。
「...あ、の。ここ、どこですか...?」
「俺ん家。」
?
どうして僕は諒の家にいるんだろうか。
そういえば、昨日は何していたんだっけ?
――――――そうだ。
僕は昨日の出来事を思い出した瞬間、心臓が早いスピードで動き始める。
....結局、あの後どうなったんだろうか。
全く記憶がない。
確か、カーテンから日が差していて,,,足音が聞こえて.....??
それから......、それから.........。
思い出せない。
僕が何もせず、扉の前でぼぅ、と立っていると
「....お前何してんの?何でそこにつっ立ってる訳?」
「え、あ....、えっと...どこに居ればいいですか...?」
「....隣来れば」
そう言って、諒はまた携帯に視線を戻す。
僕は言われた通り、諒の隣に座った。
とてもふかふかしていて座り心地の良いソファだと思った。
ただ、隣に座るとさらに気まずくなってしまった。
何か話しかけるべきか、昨日のことを質問すべきか悩んでいると、諒が口を開いた。
「...お前昨日丸一日ずっと寝てたぞ」
「え?……嘘、ほんとに…?」
どうやら昨日は一日中寝ていたらしく、僕が昨日と思っていた日は一昨日のようだ。
「お前の親にはお前の携帯で連絡しといたからな。」
「あ、あぁ…そう。別に…やらなくてもだいじょぶだった、けど……、」
小さくそういうと「あ?」と機嫌悪そうに諒が聞き返す。
多分、わざわざやってやったのになんだその言い草は、と思ったんだろう。
「あ、いや……その、別に連絡しなくても親は何とも思わないから…さ」
はは、と笑いながら説明する。
諒は僕の方を見ず、視線を携帯に向けながら無言で僕の話を聞いた。
そしてまた沈黙が訪れる。
取りあえず、帰ると伝えるために口を開く。
「あ...の、諒。僕そろそろ....」
帰るね、と言おうとした時。
「な~、諒ぉ~。僕の財布知らな~い?」
部屋の奥から声がした。
ふと、顔を向けると、一人の大人の男性が立っていた。
茶髪の髪に、クセっ毛。目は垂れ目の緩そうな雰囲気。
羊のようなクルンと丸まっている角を持っていた。
「ねぇ~、聞いてる...ってあれぇ?誰その子...。諒のお友達かなぁ?名前、何ていうの?」
僕に気がつくとニコニコと笑いながら近づいてくる。
「あ...、えと、零です。」
「へぇ~、零ちゃんっていうんだぁ~...。僕は優 。よろしくねぇ零ちゃん?」
...ん?ちゃんって僕もしかして女と見られてる...!?
訂正しようと口を開こうとした瞬間、優さんが僕の目の前に来る。
そして、えへと笑いながら僕の前でしゃがみ、手を差し伸べられる。
その行為に僕は硬直する。
今まで僕は握手をしたことがなかった。
この容姿のせいで誰にも声をかけられず、仲良くしようなんてことは一度もなかったからだ。
僕は遠慮気味に伸ばされた手を握る。
「よ、よろしく...お願いします...?」
そんな小さな挨拶でも優はニコリと笑ってくれた。
結局性別の訂正は出来ず、まぁそんなに関わることもないだろうしいいか、と思ったので何も言わないことにした。
それからは沢山の質問をされた。
「ねぇ、零ちゃんは諒と同級生なのぉ?」
「あ...はい、一応」
「そうなんだぁ~。じゃーさ、僕はいくつ位に見える?」
「え...えーと...、20歳位ですかね...?」
「あはは、そんなに若く見えてるんだぁ~、なんだか嬉しいなぁ。これでも僕、25なの。...ってそんなに変わんないかぁ」
そんなやりとりを繰り返している中でも諒は僕の隣で携帯ゲームをしていた。
少し喋っていると誰かの着信音がなった。
音的には僕のではないし、そもそも僕の携帯が今どこにあるのかわからない。
誰のだろうとあたりを見渡していると
「あちゃ、もう時間だぁ....。ごめんね零ちゃ~ん、もう行かなきゃ....」
どうやら優さんのものだったらしく、ごめんねと謝るポーズをした後に電話に出ず、早足で部屋から出て行ってしまった。
ともだちにシェアしよう!