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第9話 家族

優さんが出て行ってしまうと、また気まずくなってしまった。 取りあえず、さっき言おうとしたことをもう一度言ってみよう。 「ね、諒...。僕、そろそろ帰...り、たいんだけど...」 「...制服。まだ乾いてねぇんだよ」 面倒くさそうに諒は言う。 もしかして、汚れた制服をわざわざ洗ってくれたのだろうか。 それにしても、二日もたっているのに制服が乾かないなんて雨でも降っていたんだろうか...? いや、それよりもお礼を言うべきだろうか...。 「え、あ、そう...なの。....あ、あの、そのッ...あ、ありがと...ございます」 「...」 お礼を言うなんてなんだか恥ずかしい。 諒は諒で返事をしないから余計に恥ずかしくなってしまう。 でも、制服が乾いてないなんて困ったなぁ...。 ふと時計を見ると夕方の五時過ぎだった。 道理でおなかがすく訳だ。 でも、ご飯...どうしよ。諒の家で食べていいのかな...て、それは甘えすぎかな。 もんもんと悩んでいると、どこからか女性の声が聞こえる。 「諒~、零く~ん、もうすぐご飯だからね~。」 どうやら、声は下の階から聞こえているようで、僕が起きたことは優さんに聞いたんだろうか。 その声にすらも諒は反応せず、未だにゲームに集中していた。 それにしても突然家に上がりこんでいる僕を諒の家族は不審に思わないのだろうか。 その上、僕には角がない。 今まで、どんな人にも軽蔑され、白い目で見られてこられたのに....。 角がある人の気持ちは分らないけど、自分らと違う人間を見たら誰だって一緒に居たくはないものだ。 僕だって(もし角があったら)いろんな人が集まっている中、ひときわ目立つ人間や、見た目が怖い人たちに自分からは進んで一緒にいたいなぁなんて思わないと思う。 人間は集団で生きる生き物なので、自分と共通点のある仲間と共にすごしたいと思うものだ。 (ま、僕には居ないんですけど...) そんなことをぐるぐると考えている間にまた女性の明るい声が聞こえてくる。 「ご飯よ~、降りていらっしゃい!」 すると、今度は諒はゲームをやめて携帯をもって階段を下りていく。 僕は一人、部屋に残る訳にもいかず、諒の後を追った。 下の階には大きめの机があり、そこにはおそらく諒の母親、そして父親がイスに座っていた。 母親のほうは、青緑色の細い角で、父親は薄い赤のねじれている太い角だった。 開いている席は二つあり、そのうちの一つを諒が座る。 必然的に僕は残りの席に座ることになる。 机をはさんで向かい側には諒の母親が、僕の隣には諒が、右斜め前には諒の父親がという配置になった。 机に出されている料理は洋風で、パスタやスープなどがそれぞれの前に置かれていた。 「それじゃ、いただきます」 諒の母親がそういうと、諒の父親と諒は適当に手を合わせ料理に手をつけ始める。 僕も小さく「いただきます」を言ってから、用意されているフォークをもってパスタを食べる。 「...美味しいっ」 思わず口に出てしまった。 でも、そう思うほど料理が美味しかったのだ。 「あら、お口にあって良かったわぁ。良ければ沢山食べてね」 諒の母親は微笑んでそう言ってくれた。 家族で食卓を囲んでご飯を食べているなんて諒はいいなぁ...。 毎日食事が楽しいんだろうなぁ。 なんて、考えながらスープを飲んで少しずつお腹を満たしていく。 ふぅ、と息をついてしまうほどお腹が一杯になり食器をキッチンに持っていく。 「ご馳走様でした。料理...とても美味しかったです。」 席に着き、片付け終えた諒の母親にそう告げる。 「うふふ、ありがとう零くん。嬉しいわ。」 母親は照れくさそうにそう言った。 すると食器を片付け、席に座った諒の父親に話しかけられる。 「にしても、零くんは小食なんだなぁ。全然食べてないぞ?もっと食べないとな。」 「そう...ですかね?これでもお腹、一杯なんです」 確かに諒よりも食べた量は少なかったかもしれない。 かといってこれ以上食べたら絶対吐き出してしまうと思い、お腹は膨れたと伝える。 「そうかい?...でも大丈夫。僕も小さい頃は小食だったからね。今じゃあ二人前はペロッとたべちゃうけど」 諒の父親はそういうが、その細い身体にそんなに料理が入るものなんだろうかと、疑問に思ってしまう。 それから、色々な話をした。 人気のドラマの話や、趣味の話、好きな歌手の話など僕はほとんど聞き手に回っていたがそれでも楽しかった。 久しぶりに人と会話をして、とても満たされていた。 ――――しかし、異変は訪れた。

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