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バレンタイン5

梓の見立てにケチをつけるつもりはないが、やはり普段素足や下駄で過ごす事が多いアオキにとって革靴はかなりハードルが高かったらしい。 中丸の言う通り、革靴からスニーカーになっただけでアオキの体力は随分と回復した。 そして彼はアオキのプレゼントのイメージを聞き出すと、それに合うショップに案内し、店員にいくつか商品をピックアップして持ってこさせた。 恐らく、アオキに選ばせたら目移りしてしまい逆に何も選べなくなる事を予想してそうしたのだろう。 その気遣いはありがたいものだった。 おかげでアオキは迷う事なく商品を選ぶ事ができた。 無難だとは思ったが、紅鳶へのプレゼントはネクタイにした。 彼の髪色と同じ鳶色のラインが入った、レジメンタルストライプのネクタイ。 きっとスーツを着た紅鳶の凛々しさをますます惹き立ててくれるはずだ。 会計を終え、丁寧に包装されたプレゼントを受け取るとアオキはようやく緊張の糸が解け、ようやく肩の荷が下りたような気がした。 それもこれも中丸のおかげだ。 きっと彼に出会ってなかったら、アオキはまだ途方に暮れ、あの場所で蹲っていたに違いない。 アオキは中丸に向かって深々と頭を下げた。 「中丸様今日は本当に本当にありがとうございました。あの…何かお礼ができたら良いのですが…」 すると中丸は何も言わず視線で「来い」と促してくる。 何だろう?と思いながらついていくと、そこはカラフルな内装に軽快な音楽が流れる小さな店舗だった。 あたりには何やら甘い匂いがたちこめている。 若い子たちが数人列をなしているそこへ中丸が並んだので、アオキも真似て並んだ。 暫くして順番が来ると、中丸は若い店員に何かを注文する。 そして店員から何かを受け取ると、アオキに差し出してきた。 「ほら、食べろ」 それはソフトクリームだった。 正しく言えばソフトクリームらしきもの。 ワッフルコーンの上に乗せられたアイスの形は確かに渦を巻いたあの形状なのだが、なぜか鮮やかな色がついている。 まるで虹のような色だ。 その虹色のソフトクリームには星形のお菓子やカラフルなアラザン、砂糖菓子でできたパンダなどがトッピングされていた。 アイスというよりはまるで作り物のように見える。 「よくわからんが若い奴の間ではそれが流行ってるらしい」 中丸の言葉に、アオキは目を丸くすると渡されたアイスと中丸の顔を交互に見つめた。 どうやら中丸はアオキのためにわざわざ並んでまでアイスを買ってくれたらしい。 「お前もそういうのに興味があるんじゃないかと思ったんだが…嫌いだったか」 少しぶっきらぼうにそう言った中丸の顔が、心なしかいつもより紅潮している気がする。 こういうところだ。 他の男娼は中丸を嫌煙していたが、中丸が優しい事をアオキはずっと知っていた。 粗雑で横柄だと誤解されがちだが、実は誠実で努力家。 その積み重ねた努力で確実に成功を掴んでいるため、それが彼の圧倒的な自信になっているのだ。 そして、実は照れ屋で横柄な態度はその裏返しだったりもする。 少しも変わっていない中丸の人柄が嬉しくてアオキは思わず微笑んだ。 「いえ、ありがとうございます」

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