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バレンタイン4

「それで、お前はなんでこんな場所に座りこんでるんだ?目立ってしょうがないぞ」 中丸の言葉にアオキはようやく周囲の視線に気づいた。 自分では目立たない所と思って座り込んだ場所だったが、どうやらそうでもなかったらしい。 道行く人の何人かと目が合ってしまい、たちまち恥ずかしくなってくる。 そんなアオキに気づいたのか、中丸が身を呈して盾になってくれた。 「お前は容姿が目立つからな。隠れてると余計に目を引くもんだ」 「そんなこと…」 「その証拠に俺もすぐに気づいたぞ。なんてったってずっとお前の面影を追いかけてきたんだからな」 その言葉にアオキは思わず言葉を詰まらせた。 やはり中丸はあの時のことを… 当然だろう。 もしも自分が同じ事をされたとしたら、恐らく恨み言一つじゃ足りないくらいだ。 なんと返していいかわからず視線を泳がせていると、今度は中丸が吹き出した。 「そんな顔をするなよ、冗談だ。俺はお前を恨んだりしてないさ」 そう言っていたずらっぽく片目を瞑る中丸の顔を見て少しホッとする。 ホッとすると同時に、胸のどこかがチクリと痛んだ。 中丸の質問に答えるべく、アオキはこうなった経緯をぽつりぽつりと話した。 紅鳶のことは「大事な人」とだけ話し、その人にプレゼントを買うためにここに来たのだと伝えた。 アオキの説明に時折頷きながら中丸は腕を組むと拳に顎を乗せ、ふむ…と考えこむ。 「なるほど。その相手のためにわざわざそんな慣れない格好までしてきたというわけか」 「はい…」 「わかった、ちょっと待ってろ」 中丸はアオキにその場で待つよう指示し、ポケットから長方形の電子機器を取り出すと指先で何やら操作をしはじめた。 電話機のような突起もないのにあの機械はどうなってるんだ…?と頭の中で疑問符を浮かべながらその様子を眺めていると、操作を終えた中丸がアオキに向かって言った。 「よし、付き合ってやる」 「え…つ、付き合うって…?」 「右も左もわからんくせに買い物なんてできないだろ。俺が手伝ってやる」 中丸の言葉にアオキは狼狽した。 きっちりとスーツを着ているあたり、中丸は明らかに仕事中だ。 それに確か彼はIT企業の社長候補といわれるほど優秀で、多忙な日々を送る男だったはず。 いつか自分は世界を股にかける男になるんだ。 アオキの元を訪れるたび、そう言っていたことを思い出す。 「えっ!?そ、そんな…中丸様はお仕事中なんじゃ…」 「構わない。こう見えて俺は今優秀な社長なんだ。少しくらいお前に付き合ったって会社は潰れやしないさ」 相変わらず自信に満ちた傲慢な言葉だが、中丸が嘘をついたことは一度もない。 恐らく彼が優秀な社長であることは本当なのだろう。 しかし、もう男娼ではない自分は彼によくしてもらう理由が一ミリもない。 つまり、中丸にとってなんのメリットもないはずなのだ。 確かに右も左も分からないこんな場所でスムーズに目的が果たせるとは思えない。 でも彼の言葉に甘えていいものなのかもわからない。 アオキが悩んでいると痺れを切らしたのか中丸が近づいてきて、しゃがみこんでいるアオキの腕を引っ張り上げた。 「いいから来い。いつも素足でいるお前がそんな革靴じゃまともに歩けんだろ。まずは靴を変えるところからだ」 強引な中丸に逆らうこともできず、結局アオキはその後をついて行くことしかできなかったのだった。

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