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第1話

「もぅ…今日は忙しかったわぁ」 ついつい大きな溜め息と共に独り言を言ってしまった。 私の名前はダイヤ。 今は仕事の休憩でバックヤードでメイクを直している最中なの。 今日は本当に朝からてんてこ舞いよ。 あぁ、綺麗にセットしたヘアーもぐちゃぐちゃだし、メイクも汗のせいで崩れてきてるし嫌になっちゃう。 もしかしたら今日この店で一番働いたのは私じゃないかしらと思うほどくたくただわ。 疲れで肌がボロボロになっちゃう。 そうね…これから私や私の職場についていてご紹介するわ。 此処は『CLUB Alice(クラブ アリス)』 裏の世界では一応名の通った会員制のSM倶楽部。 家出・一家離散・借金返済困難者・権力者からの依頼等の様々な理由で集められた人間が調教、飼育されているわ。 それを調教しているのが私達調教師と呼ばれるメンバーなの。 調教師の身体にはタトゥーが刻まれていて、そのタトゥーの模様がそのままここでの呼び名なの。 私は足首にダイヤの柄のタトゥーがあるのよ。 だからダイヤ。 メンバーとマークにはそれぞれ役目とか役割とかが色々あるんだけど、それは追々説明するわね。 ここでは、お客様の地位や名誉によって上中下と三段階のランクと料金に分けられたありとあらゆる『プレイ』が行われるの。 そして、このCLUB Aliceには様々な業種の支店があってその1つで普段は私も働いているのよ。 私が働いてるのは「Bar Wonder Land(バー ワンダーランド)」 名前は普通のバーなんだけど、働いてるのは私みたいな子達ばかり。 いわゆるオカマバーってやつかしら。 皆、各々綺麗に着飾って可愛い子達ばかりで私はそこでママをしているの。 各支店では調教が終わった子達が働いたり、本店への注文などの窓口になったりしているの。 「マ~マあたしぃ、アリスに呼び出されたからぁ、早上がりしまぁす」 「あら?そうなの?」 この何とも間延びした話し方の子はJ(ジェイ)ちゃん。 この子は私がピアススタジオで働いていたのをスカウトしてきたのよ。 スタジオで働いている時は他の部署のスペードちゃんってちょっとパンクな格好をしている子みたいな格好だったんだけど、このお店に来てからフリフリのゴスロリの格好に変わって評判は上々なの。 黒のロリータ服に紫の口紅がコアなお客様にうけてるのよね。 「アリスに行くって私は聞いてないわねぇ?」 「なんかぁ~。急にきまったー!ってウサちゃんから連絡きたぁ」 「もしかして“下”のお仕事かしら?」 「そーかもぉ。あたし“下”のお仕事嫌いじゃないからぁ別に良いけどねぇ」 Jちゃんの言っている“ウサチャン”とは CLUB Aliceにお客様を案内する道先案内人のことを指しているの。 白兎といって、お客様をアリスの世界へ誘うのがお仕事なの。 CLUB Aliceでは兎の被り物をしているんだけど、素顔はなかなかいい男なのよ。 白兎くんも普段は別の仕事をしていて、私もよく白兎くんのお店に出入りしているわ。 「帽子屋と三月とチューちゃんによろしくね」 「えー?ママが直接言えば良いんじゃなーい?」 「“下”には帽子屋が居るから、私はあまり行かなくていいのよ」 「そーなのぉ?」 アリスの世界に案内されたお客様は、この倶楽部に相応しい人間かどうかの審査が行われるの。 相応しくないと判断されたり、倶楽部のルールを守らない者には制裁があるのよ。 それが“下”と呼ばれる部屋なの。 “下”とは CLUB Aliceの最下層にある部屋で、地下室とも呼ばれている部屋。 私のお店のでも、ナンバーが大きい子しか呼び出しがかからないから名前しか聞いたことのない子が殆んどね。 「でも、私も今日は呼ばれてるから久しぶりに“下”にでも行こうかしら」 「ほんとにぃ?なら、あたしぃ帽子屋さんに言っておくねぇ?」 Jちゃんは嬉しそうにスマートフォンを弄っていた。 この子は何がそんなに嬉しいのかしらね。 でも、そんな事でも喜んでくれるのが可愛いところなのよね。 私達調教師にもランクがあって、役職持ちは会社で言うところの専務とか、部長とかかしら。 役職っていうのは私みたいにタトゥーが身体にあるメンバーのことね。 私はダイヤの元締めってところかしら。 トランプのマークにはそれぞれ役目があって、私のダイヤグループは医療関係の事を主に担当しているわ。 前の職業が医療や介護に従事してた子が多いわね。 私がスカウトしてきたJちゃんもプロのピアッサーよ。 因みに私も前はそこそこ有名な外科のお医者さんだったの。 お医者さんの時も結構いい役職を持っていたのよ。 たまにお店に同期とか後輩が遊びに来てくれる位には人望もあったんだから。 「ママ~?そろそろお店開けたほうがいいんじゃないですか?」 「やだ!もうそんな時間!あら、ミミちゃんお掃除してくれたの?ありがとう。」 「えへへ」 この子はダイヤの3のナンバー持ちのミミちゃん。 ナンバー持ちは数字が大きくなるほどJちゃんみたいに本部の重要な仕事が回ってくるし、ナンバー持ちの下にいる子達も中々優秀なのよ。 まぁ、ナンバーが若くても私のグループの子達は皆優秀なの。 「ミミちゃんありがとう~☆はい。ちゅー」 ミミちゃんの唇に軽くちゅっとキスをすると、周りからどよめきが起こる。 周りからは『ミミずるい!』『あたしもしてほしい!』と声が聞こえてくる。 「ミ~ミ~?それぇ、ちょっとズルくなぁい?」 「Jさん…」 少し小柄な男の娘のミミに、ゴスロリでばっちりメイクのJが詰め寄っている。 たまにナンバー持ちの子達は私を取り合ってじゃれあいをしてしまうことがあるのよね。 「んんんっ」 「ミミってぇ、耳の裏弱いのぉ?ミミだけにぃ」 「Jさんの舌のピアス気持ちいっ」 ミミちゃんに舌を絡めてキスをするJちゃん。 Jちゃんは舌にピアスをしていてそれに反応してるみたい。 「はいはい!ナンバー持ち同士でじゃれあわないの!皆いらっしゃい!キスくらいしてあげるわ!」 周りからはキャー!と歓声が上がった。 まぁ、オカマバーだから黄色い声とは言えなかったけどね。 お店に出る前から疲れちゃったけど、お店の子達は皆可愛いわ。 + Jちゃんとお店を早上がりして本部にやって来た。 「マ~マ!先に“下”に居るねぇ?」 「あんまり無茶は駄目よ?」 「は~い」 Jちゃんは嬉しそうに黒いパンプスをカツカツ鳴らしながら、スカートを翻して姿を消してしまう。 さぁ、私も診療室に行かなくちゃね。 私は長い廊下をのんびり進む。 倶楽部で奴隷の調教には体調管理が不可欠なので診療室が存在しているの。 「Kちゃーん?今日はどーお?」 「あ、ダイヤさん。今日は特に変わった事はありません」 診療室に入ると白衣の男がいた。 彼はKちゃん。 私の部下で、アリスに常駐者している内科医なの。 ダイヤのグループは奴隷の体調管理が一番の最重要な仕事なのよ。 お客様にも何かあるかもしれないから、常駐のダイヤのスタッフがいるの。 「ならよかったわ」 「あ、あの…」 「あら?どうしたの?」 「店で皆にその…」 Kちゃんはちょっとシャイな所があって言い出しにくそうにしているけど、多分お店の皆にキスしたのを誰かから聞いたみたい。 ダイヤのグループは医療に従事した仕事が多いから、情報の共有が基本。 そのせいで本当に些細な事でも情報共有されちゃうのよねぇ。 自分の部下が可愛いって、上司冥利に尽きるわね。 「ふふふ。Kちゃんもキスして欲しかったのかしら?」 「あの…僕は…」 こんな仕事をしてるし、ナンバーも大きいのにKちゃんは変に初心なところがまた可愛いのよね。 真面目そうな見た目をしているくせに、身体はしっかり調教済みだし感度も抜群なの。 それに、パートナーが居ても私に甘えてくるなんて本当に役得というか、上司特って感じよね。 「そんな可愛いKちゃんには、日頃の感謝を込めてたっぷりいいことしちゃうわぁ」 「え…いや…僕はそんなつもりじゃ…」 私はKちゃんの腰にするりと腕を回して、抱き込むと顔を近付けていく。 唇が触れるか触れないかの距離で、Kちゃんの身体がふるりと震える。 緊張しているのか、ぎゅっと瞼をきつく閉じているのがとっても可愛くて思わず勢いよく唇を奪う。 Kちゃんのパートナーには悪いけど、手塩にかけて育てたのは私なんだから少し位つまみ食いをしても馬には蹴られないと思うの。 なので、据え膳はきっちりいただかせてもらうわ。

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