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第2話

キスでとろんととけた顔をしているKちゃんの服を脱がせると、肩や首筋に人間の歯形が無数についている。 「あらぁ。本当にあいつはあいかわらず悪趣味ねぇ」 「いえ…僕も望んでの事なので」 私が歯形の一つを指先で撫でると、Kちゃんはうっすらと笑った。 その顔が可愛くて、思わず頭を撫でてあげてしまったわ。 「じゃあ、これから治療しなくちゃね?」 「はい…お願いします」 Kちゃんの手を取って診療台へ連れてくる。 上半身を触診して、そのままスラックスも脱がせて下着姿にさせた。 足を開かせると、やはり際どい所に歯形や引っ掻き傷がある。 血液感染の病気もあるくらいなのに、Kちゃんのお相手は本当に悪趣味なんだから。 私はやれやれと思いながら近くの棚から薬とガーゼを取り出す。 「すぐに新しいのをつけられちゃうんでしょうけど、お薬塗っておくわね」 「はい。お手数おかけします」 「いいのよぉ」 私は歯形のひとつひとつに薬を塗ってガーゼを当てる。 首筋や肩の傷は深いようで血が滲んだ痕跡があった。 私はわざとゆっくり傷口の様子を観察しながら触診をしていく。 下着をずらして、性器も観察するがこちらは傷などはなかった。 次にアナルの上を触診すると、物欲しげにひくひくと収縮しはじめる。 「こっちは噛まれてないのねぇ」 「ダイヤさま…いえ…ダイヤさんは酷い人というかも知れませんが、彼はとっても優しいんですよ」 「あら。妬けちゃうわ」 私はクスクスと笑いながら指先にチューブから薬を出してアナルに塗りつける。 そのまま中を擦ってあげると甘い吐息が漏れ出す。 Kちゃんはきちんと私が調教した時の事を覚えていて、私が孔を弄りやすい様に足を大きく広げて腰を突きだしてくる。 前立腺もぷっくりと膨らませて、すっかり身体は女の子になっているみたいね。 指を増やして指先で前立腺を摘まむと、出さずに絶頂を迎えてしまったみたいでピクンピクンと身体を震わせている。 「あっ、ダ…イヤさんお…お疲れさ…まで、すっ」 「また何かあったら呼んでね☆」 私は軽く服を整え、まだ息もたえだえなKちゃんに投げキッスをして診察室を後にする。 本当に私の部下は皆可愛くて困るわ。 今日は指名も調教もないからそろそろ“下”にでもいこうかしらと思って足を進める。 調教師は指名制で本部にやってくるの。 ナンバーなしの私は上級のお客様でもごく一部の人にしか指名ができない。 同じナンバーなしのスペードちゃんは超がつく程の売れっ子なんだけど、実は自分のグループの教育に忙しいみたいで余計に予約が取りにくいらしいの。 因みにスペードちゃんは、見た目はパンクなんだけどああ見えて元外務省勤めっていうから世の中不思議よねぇ。 スペードちゃんは元々お堅いお仕事だっただけあって、スペードちゃんのチームは秘書とか、経理なんて事務的な事が多い部署なの。 だから時々、スペードちゃんのところの子がbarの方に経理をしに来てくれたりするのよ。 ただ、見た目がパンクなものだから凄く違和感があって面白いんだけどね。 + 私はカツカツとヒールを鳴らしながら階段を降りる。 ここ『CLUB Alice』はオーナーのバカラちゃんの趣味…なのか見た目は大きな洋館なの。 1階はSM倶楽部というだけあって、そういったプレイルームと、私達調教師の控室や一部奴隷役の子達の控室、私室なんかがあるわ。 調教が終わると、奴隷の子達は様々な理由からお店で働いたり支店に出たりして 『CLUB Alice』の住人になっていくのよ。 そして、2階は普通の洋館の客室みたいな造りなんだけどれっきとしたプレイルームなの。 天蓋付のベットがあったりとなかなかロマンチックなお部屋が多いわね。 2階からは、これこそオーナーの趣味のイングリッシュガーデンが見えるの。 お客様は夜にいらっしゃるから、お客様にも楽しんでいただけるように夜はライトアップもしててなかなか素敵よ。 1階は窓がある部屋が少ないからそれは残念な所ね。 別館と言われる離れもあって、そこは和風建築の建物に立派な日本庭園があるの。 和服を来て風流な日本スタイルでプレイしたいってお客様が使われるわね。 そして洋館の地下には、これから調教を受ける子達が使う調教室があるの。 コンクリート打ちっぱなしの部屋に、簡素なパイプベッドに、扉が二枚と大きなモニターが壁にかかっている簡素な部屋が多いわね。 バカラちゃんが情緒を出して石畳風にしようかって悩んでたのはスペードちゃんのチームには黙っておきましょう。 その地下の更に下の階が、私が今目指している“下”と呼ばれる場所で地下室があるの。 地下室は本当にごく一部の調教師しか立ち入りできないの。 と、言うより立ち入らないといった方が正解かしら。 調教部屋でもなかなかハードな事が行われてるんだけど、地下はそれ以上の事が行われるのが普通な事だからナンバーなしの私達が立ち入りを制限してるって言うのが正しいわね。 皆、部下は可愛いってことね。 階段を降りきるとあたりはしんと静まり返っている。 地下室へ降りる通路は隠し扉にしているし、エレベーターも存在するけれどそれはパスワードがないと動かない。 それだけの機密があるわけではないけれど、念には念をということらしい。 大きな扉の前に立って、扉を開けると簡単に扉は開く。 部屋に入ると手洗い場とロッカーがあって、オペ室の前室みたいだと毎回思う。 とりあえずロッカーから白衣を出して羽織る。 念のために靴も替えておきましょう。 肩まである髪もゴムでサッと結ぶと本当にオペに行くみたいだわ。 手を洗い、奥の扉に向かう。 「あら、Jちゃん?まだ薬品室に居たの?」 「あ~。マ~マァ?やっと来たぁ」 奥に進むと薬品室と呼ばれる薬品が沢山並んだ部屋に出る。 そこで先に地下室に居るはずのJちゃんが何やら薬品を選んでいた。 「私を待ってたのぉ?可愛いわねぇ」 「ママとぉ、一緒に来れるからぁ楽しみに~してたんだぁ」 にっこり笑うJちゃんの頭をなで回したい衝動に刈られる。 しかし、Jちゃんは今は真っ黒なナース服に真っ黒なナースキャップをしてるからぐっと我慢してぎゅうと抱き締めるだけにする。 「うっ…。Jちゃんかわいすぎよぉ!きゅん死させる気なの!」 「えへ~。それうれしぃ~」 「この可愛いブラックナースちゃん!」 Jちゃんは嬉しそうににこにこしている。 普段はクールなこの子も私の前では表情豊かなのよね。 「あ~。ママ~?あたしぃお仕事なの忘れてたぁ!」 「そうねぇ。お仕事したら一緒に食事でも行きましょ」 「本当にぃ?」 もうジャンプしそうな勢いで顔を輝かせるJちゃんは本当に可愛くて癒されるわ。 嬉しそうにJちゃんは薬棚から小さな瓶を取り上げると、私の手を引いてもうひとつ奥の扉に進む。 一番奥の部屋は真っ暗。 ではなく、意外にも明るいタイル張りの部屋なの。 シャワールームの様にシャワーカーテンで少し区切られている。 「よぉ。ダイヤも来たのか」 「久しぶりねぇ帽子屋」 入ってきた私達に近付いてきた帽子屋は実は医者時代の私の同期だった男よ。 無精髭を生やしたこの男は病院でちょっとした事件を起こして、そこをバカラちゃんに拾われたってわけ。 「あらぁ?三月とチューちゃんは?」 「あぁ。新しい玩具で遊んでるよ。お前も行ってやれ」 「はぁ~い」 帽子屋が少し離れた場所にあるカーテンを指差した。 Jちゃんは名残惜しそうに私の手を離すと、振り返りながら区切られたカーテンに消えていく。 「お前のところの奴は本当にお前が好きだな」 「人望の差かしらぁ?さっきも…むふふ」 「まぁ、こっちは人数少ないしな気楽なもんだよ」 帽子屋は一瞬眉毛を訝しげに吊り上げたが、直ぐにいつもの仏頂面に戻った。 気楽だと言うのは、地下室は実質的に3人しかいないことを言っているみたい。 「何人も人が来るか分からない部署に置いておけないからでしょ」 私はズバッと切り捨てたが、地下室はそんなに頻繁に稼働しない。 お客様が節度を持って利用されているからなのもさることながら、お客様はそれなりの地位を持っている。 こんな刺激をなかなか簡単には手放したりはしないからだ。 「それにしても、“お茶会”にお客様が来るなんていつぶりかしら?」 「前のお客様から…調度1ヶ月だな。三月がそろそろ爆発しそうだったからありがたいよ」 私と帽子屋は言葉遊びをしているみたいだけど、お茶会とはここで行われる全ての事をそう呼んでいる。 ここはある意味治外法権だから本当に、殺す以外はなんでもありの場所。 そして私達が三月と呼ぶ人物も三月ウサギの名前の通り少し変な所があった。 「まぁお前もお茶会のお客様に会ってみろよ」 「そうね…その久々のお客様を三月が壊さないうちにお会いしておきましょうか」 私と帽子屋は笑い合いながらJちゃんが消えていったカーテンの方へ移動しはじめた。

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