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第5話

「間に合った」 会場に着いたのは、僕の出番の10分前だった。急いで靴も履き替える。 前の人の出番が終わり、僕の名前がコールされた。 「自信持って行ってこい。お前ならできるから」 「うん」 力強くうなずいて、僕はステージへと向かう。 茉莉菜ちゃんに教えられたことを思い出す。 会場の空気にのまれずに、なりきって演じることが大事。 僕は両手を振ってステージに登場する。 それだけで会場からものすごい歓声とどよめきが上がった。 ちょっとモデル風に歩いて。ステージの中央に立つと可愛くセクシーなポーズをいくつか決める。 「超可愛い!!」 「誰だよ、あれ?」 「嘘だろ、町田!?」 そんな声も聞こえてきたけど、なりきることに集中し笑顔を振りまいた。 会場がどよめきみたいな歓声に変わる。 最後に投げキスをして、僕はステージを後にした。 僕の人生の中で、こんなにも注目を集めたことはない。 やりきった達成感と充実感でいっぱいだった。 僕は見事にコンテストで優勝し、優勝商品の温泉旅行を手に入れた。 優勝インタビューの時は、魔法が溶けたみたいにぐだぐだになっていて、会場は笑いに包まれていた。 コンテストで3位だった荒谷は、満足そうな笑みを浮かべて僕に拍手していた。 すごく嬉しかった。 「はぁっ……疲れた」 どっと疲れが出た。 僕は荒谷より早く音楽準備室に戻ってきていた。 着替える気力もなくて、広い机の上に突っ伏している。 ふと、荒谷がここを出る直前に言った言葉を思い出した。 『帰ってきたら奪うから。お前の処女』 疲れも忘れて、顔が一気に熱くなる。 本当だろうか? 教室の戸が突然開いて、荒谷が入ってきた。 「うわっ」 いきなりで動揺する。 「trick or treat」 ドラキュラの仮装のままの荒谷が、めずらしくおどけた様子で近づいてくる。 お菓子くれなきゃイタズラするぞ、だっけ。 残念。お菓子は持ってない。 僕は頭に浮かんだ言葉を、思いきって口にした。 今ならどこまででも大胆になれる気がした。 「eat me」 お菓子の代わりに食べてもいいよ。 荒谷が吹き出した。 「町田、ひと皮むけたんじゃねぇ?拒まねぇの?」 「うん」 「酷いことしたくなるだろ?」 「……いいよ」 荒谷が机の上にドラキュラのマントを大きく広げた。 ひょいと抱えられて、机の縁に座らされる。 深紅のベルベットの生地の上に、ゆっくりと押し倒された。 「はぁっ、あッ、ああッ……」 僕はバックから荒谷を受け入れていた。 痛かったのは挿れる時だけで、痛みより快感の方が勝っていた。 荒谷が上手いのか、よほど体の相性がいいのか? 気持ちいい。 初めてなのに感じてしまう。 荒谷が僕を深く犯して、粘膜が擦り合わさる度、たまらない愉悦が生まれる。 パンッ、パンッと肌がぶつかりあう音。 ピッチが上がって、荒谷の律動が激しく荒々しいものになる。 「アッ、アッ、アアッ……」 僕はひっきりなしに喘いでいた。 最奥まで突かれ続けて、快感を追うことしか考えられなくなる。 繋がったところが溶けそう熱い。 僕を貫く荒谷の熱量が熱い! 「あっ、もう、イっちゃう」 「いいぜ。俺もイくから」 「アッ、あああぁ……ッ」 僕は背をしならせて昇りつめた。 「……ッ」 荒谷も低く呻いて体を震わす。 僕のナカで、荒谷のがドクッドクッと大きく脈動したから、イッたのがわかった。 二人で荒い息をつきながら脱力する。 足元には僕の残滓が、ぽたぽたと滴り落ちていた。 セックスが終わっても、荒谷は僕をずっと抱きしめてくれていた。 二人で横になり、マントにくるまっている。 荒谷の体は温かい。というより、密着したところは熱いくらいだ。 だから、寒くはなかった。 「ずっとお前のこと好きだった。ガキの頃から」 「えっ?」 僕は驚いて荒谷を見る。 荒谷が僕を好き? 「眼鏡を外したお前の顔が可愛くて。でも、うまくお前に近づけなくて、意地悪しかできなかった。それがアイツらにまで飛び火して、収拾がつかなくなったんだ。悪かったな」 小学生にありがちな、好きな子をいじめちゃうっていうヤツ? そう思うと荒谷が可愛くなった。 「でも、佐々木たちにやめるように言ってくれたのも荒谷だったんだろ?」 だから、中学になっていじめがやんだ。 「まあな」 「じゃあ、いいよ。好きって言ってくれて嬉しい。ありがとう」 僕が荒谷を好きになる前から、僕のことを好きでいてくれたなんて。 嘘みたいだ。 なんだか幸せな気分になる。 僕だって荒谷が好きなんだ。 大好きなんだ。 「僕も好きだから」 「知ってる」 荒谷がふわりと微笑んだ。 ミュウに見せる穏やかな笑みと同じだった。 「俺はこういうヤツだから、また意地悪するし、泣かせるかもしんねぇけど。大切にするから」 荒谷は『大切にするから』のところに力をこめた。 それが嬉しい。 荒谷がもう一度キスする。唇をついばむような優しいキス。 僕も目を閉じてそれに応えた。 「温泉、一緒に行くからな」 「うん」 いろいろあったけど、こんなに幸せな一日になるなんて誰が予想しただろう。 ハッピーハロウィン。 僕たちが結ばれた日。 ――――

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