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第4話

学園祭当日が来た。 朝からいつもとは違う熱気に包まれて、お祭りムードで賑わっていた。 魔法使いやゾンビ、かぼちゃのお化けなど。みんな思い思いの仮装をしていた。 僕は言われたとおりに魔女の仮装をした。 サキュバスじゃなくても細部まで作り込まれていて、クオリティの高い魔女だと思った。 僕は荒谷を目で探した。 荒谷はドラキュラの仮装をしていた。 髪をオールバックにして、いつもと雰囲気が違う。 お洒落でセクシー感の漂う吸血鬼だった。 午前中はクラスのハロウィン喫茶を手伝って、午後からはいよいよコンテストだ。 荒谷と学園祭を回りたかったけど、喫茶の当番の時間がズレていて回れなかった。 僕と荒谷は音楽準備室を借りて、サキュバスの仮装をすることにしていた。 次の当番がなかなか来なくて、僕は荒谷との待ち合わせの時間に遅れていた。 走って向かう。 音楽準備室をは別棟にあった。 渡り廊下の角を曲がった所で、誰かとぶつかった。 「ごっ、ごめん」 反射的に謝って顔をあげる。 僕がぶつかったのは、私服の二人組のうちの一人みたいだった。 この学校の生徒じゃない。 「あれ?お前、町田じゃね?」 「え?」 突然名前を呼ばれて僕は驚いた。 誰だか急には思い出せない。 「俺、佐々木。こっちは山崎だよ。覚えてない?」 言われて思い出した。 確か小学生の時、僕をいじめたグループに、そんな名前のヤツがいたような。 佐々木が山崎に何かを耳打ちしている。 何だか嫌な予感がする。 「僕、急いでるから」 そう言って僕は彼らの脇をすり抜けようとした。 その腕を掴まれて捻られる。 「痛ッ!」 「そう急がずに俺たちに付き合えよ」 「町田、ずいぶんと可愛いじゃん」 「女じゃなくても楽しめそう」 値踏みするような彼らの視線。 僕は本能的な恐怖を感じて青くなる。 思わず叫ぼうとしたら、丸めたハンカチをいきなり口に突っ込まれた。 「ウウッ!」 二人がかりで両脇を抱えられ、引きずられる。 「あそこでいいんじゃね?」 僕はトイレの裏に連れ込まれた。 突き飛ばされて倒れたところに、佐々木が馬乗りになる。 山崎には両手をひとまとめにして頭上で押さえつけられた。 「動くなよ。怪我するぜ」 佐々木の手には、カッターナイフが握られていた。 「ンッ、ウゥン」 やめろ! 僕は目で訴えた。 ナイフの刃が首筋に当てられた。 僕の肌は傷つけずに、衣装だけが切られていく。 茉莉菜(まりな)ちゃんが作ってくれた衣装なのに! まっすぐ縦に切り裂かれて、僕の肌が露になった。 佐々木が口笛を吹いた。 「乳首の色ピンクかよ?たまんねぇな」 佐々木の手が僕の胸を撫でまわす。顔を近づけて僕の乳首を舐めあげた。 嫌だ! 気持ち悪い。 助けて!! 荒谷!! 僕が心の中で、精一杯荒谷の名前を叫んだ時だった。 本当に荒谷が現れたのは。 「お前らたいがいにしろよ」 凄みをきかせた荒谷の声。 「町田には絶対に手を出すなって、ずいぶん前に約束したよな」 「あっ、荒谷。これは……」 山崎は僕から手を放し、佐々木は飛び退いて後ずさる。 荒谷は素早く間合いを詰める。佐々木が取り落としたカッターナイフを拾いあげると、二人に向かって突きつけた。 「お前らの汚ないモノを、コレで切り落としてやろうか?」 恐い言葉を平然と吐く。 二人はわけのわからない言葉をわめき散らしながら、一目散に逃げて行った。 荒谷が僕の手を引いて立たせてくれる。 「大丈夫か?怪我はないか?」 「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」 酷い格好ではあるけど、とりあえず大丈夫だ。 「時間がない。急ぐぞ」 僕たちは音楽準備室へと急いだ。 教室に駆け込んで、息をつく間もなくサキュバスの衣装の着替えにはいる。 僕の出番まで40分。急がないと。 荒谷が着替えを手伝ってくれた。 次に僕はメイクに取りかかったけど、今更ながらにさっきの恐怖が襲ってきた。 手が震えて、うまくメイクができない。 荒谷が代わりにしてくれた。 髪も上手に纏めて、リボンをしてくれる。 「いい感じに仕上がったと思うぞ。茉莉菜に怒られない程度には」 鏡を見て出来映えに納得する。 僕より上手いかもしれない。 すごく可愛いく仕上がっていた。 椅子から立ち上がったけど、足がふらつく。 ヒールのある靴がキツかった。 会場までは普通の靴で行き、履き替えることにした。 「さっきのことは忘れて集中しろ」 「うん」 うなずいたけど、まだ体が微かに震えてる。 「くっそ。俺だって我慢できねぇのに」 荒谷が顔を歪めて悔しそうに唸る。 「え?」 荒谷は僕の腰を抱きよせて、キスした。 頭が真っ白になる。 「誰かに取られるくらいなら……」 大切なものを扱うように、優しく抱きしめられた。 体の震えも不思議と治まっていく。 「帰ってきたら奪うから。お前の処女」

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