園庭にある大きなシンボルツリーが色を変え始めカサカサと葉を落としていく。カラフルなペイントがされた建物からは子供たちの元気な声が聞こえてきていた。 　ここは麻湖幼稚園。 「アットホームな雰囲気の中、のびのびと子供を育てましょう」がモットーで、こじんまりとしながらも目が行き届き、温かく優しい雰囲気で人気の幼稚園だ。 　その麻湖幼稚園教諭である大神　樹(おおがみ　いつき)には大きな秘密があった。 　 　きっと誰にも信じてもらえない不思議な秘密＿＿＿それは大神が狼に変身するということだ。もとは人間だった。だが何の因果か、遠い昔、狼に変身する魔法をかけられてしまった。 　今まで誰にも言ったことがない。言ったところで信じてもらえないし、頭のおかしな人だと遠巻きにされるのがオチだ。下手したら捕らわれて殺されてしまう。だからずっとその秘密を一人で抱えて生きてきた。 　人間よりはるかに長い寿命を抱えひっそりと隠れて暮らしたこともある。変わっていく人たち、流れていく文明。それらを見届けながら知恵や知識を身に着け、いまはヒトにまぎれて暮らしている。孤独は癒されそうもないがそれは仕方のないこと。