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Ⅳ 光④

《葵》を止められない。 目に見えない強引な力が《葵》を引っ張る。 刀身の光が、彼の脇腹を貫いた。 触れられない彼の体なのに、血が流れる。 漆黒の衣から溢れ出す鮮血 止めなければ。 触れられない。 赤い血が止めどなく滴り落ちるのに、指の間を擦り抜けていく。 「お前は……」 《アヲイ》 御神刀《葵》を使役した、徳川の血を引く者。 『死神だ』 「死神じゃない!」 『そうかもな……』 やっと、お前が素直になった。 『お前を愛している……それだけの存在だ』 だったら! 「一人にするな!俺を一人残すな」 『お前は俺に命令できない』 黒い羽が落ちてくる。 あの日 兄上が頭を撫でてくれたように、優しく優しく…… 触れられない羽が、ひらひら ふわふわ 俺を包んで慰める。 砂時計が止まればいい。命の終わりの(とき)が間近に迫っている。 こんなのが『正解』なわけない。 体内に取り込んだ悪霊と一緒に、お前が消えてしまう。 それが、お前のいう《浄化》だ。 認めない。 そんな浄化、認めない! 『お前を守るために俺は存在している。だから…… 俺の存在を、お前が否定するな』 愛しい者に否定されるのは辛い。 でも。 だけど。 『お前を守りたくて、俺は望んでお前に出逢ったんだ』 だったら それなら 「なんで一緒にいられないんだ」 『お前は人間。生きている。俺は死神。理由はそれだけだ』 生きろ お前は生き続けろ お前は此の世界で、ずっとずっと これからも幸せに…… 『生きろ』 契約はまだ続いている。 お前に取り憑かれた俺は逆らえない。 生き続けなければならない。 だったらずっと、取り憑いてくれれぱいいじゃないか。 俺にずっと取り憑いて、俺に命令しろよ。 離したくなくて。 お前の存在を お前から離れたくなくて。 お前に口づけた。 擦り抜けた腕から、お前が消えていく。 黒い羽、一枚さえ残さずに。 お前がいなくなる。 キスは涙の味がした。 頬に伝った雫………

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