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第1話

西洋のとある街のハロウィンは、今年も不気味に賑やかに盛り上がっている。 日が暮れた頃からカボチャ色の街灯がともり、住宅や石畳道をぼんやりと照らしていた。並木の陰に設置された小型スピーカーは、群をなすカラスの鳴き声や、鋭利な爪で黒板を引っ掻いたような音、それから悪役じみた女性の笑い声などを流している。どれも迫真で、街行く人々は驚き、「きゃっ!」と悲鳴をあげる者もいた。 風に舞う枯葉のように、三人の少年が街中を駆けていた。小ぶりな影が、建物の壁をぞろぞろと這う。 彼らはハロウィンらしい仮装に身を包み、ケタケタと楽しげに笑いながら建ち並ぶ家々を巡っていた。狼男、吸血鬼、それから白いオバケ。インターホンを鳴らし、家から出てきた大人に臆することなく、呻き声をあげていた。 「トリック・オア・トリート!」 狼男と吸血鬼に成りきる二人は幼馴染だが、オバケの少年は1時間ほど前に街中で知り合ったばかりだ。一人で悪戯巡りをする彼を見かけた二人が声をかけ、すぐに意気投合したのだ。 それから三人で、子供の芝居に怯えたフリをしてくれる大人達から様々なお菓子を貰って回っていた。彼らが手にさげている籠は、お菓子でいっぱいだった。彼らは上機嫌に、るんるんと街を徘徊し続けた。 細くうねった通りを抜け、広い道に出る。 街の外れだが、現代建築の人家が何軒か建っている。カーテンは閉められているが、その隙間から暖かな光が漏れていた。人の気配が薫ってくる。 少年達は通りの奥に建つログハウスに目を留めた。 まるで童話に出てくるような、昔ながらの可愛らしい家だった。きっと優しいお婆さんが暮らしていて、悪戯好きな子供達が訪ねてくるのを、甘いクッキーを焼いて待っていることだろう。そう思わされる魅力を感じた。三人は期待に満ちた笑みを浮かべ、家へ向かった。 インターホンは無かった。代わりに木扉に小さな鐘がぶら下がっており、垂れている紐を引っ張れば、鐘は振り子のように揺れ、カランカランと耳障りの良い音を鳴らした。 子供達は高揚した気分で、戸が開くのを待つ。 狼男の少年は着ぐるみの毛並を整え、吸血鬼の少年は不気味な声を出す練習をした。オバケの少年は扉に映る自らの丸い影を鏡として、おぞましいポーズを研究する。 程なくして、家の中からドアノブを捻る音が聞こえた。そして、ぎいっと軋んだ音を鳴らし、ゆっくりと扉が開かれる。 少年達は今夜イチの渾身の演技で、仲良く声を揃えて叫んだ。 「トリック・オア・トリート!」 一つ、瞬きをしたと思う。眼前には空き地が広がっていた。少年達は「あれ?」と首を捻り、顔を見合わせる。 「僕達、ここで何してるんだろう?」 「ただの空き地の前で」 「ぼーっと突っ立って」 「うーん?」 「うーん?」 身の毛がよだつような魔女の哄笑が、近くのスピーカーから聞こえ、思わず身を竦めた。が、すぐに二人はクスクスと笑い、くるりと空き地に背を向けた。 「ま、いいや! 次はあの家に行ってみよう!」 「うん、そうしよう!」 そして二人の少年は、とても大切なことをすっかり忘れたまま、その場を離れていった。

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