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第9話
夜はまだこれからだ。少年達は籠いっぱいに詰めたお菓子を持って、飛び跳ねるように街の広場へと向かった。
街中同様、煉瓦の広場もハロウィンの装飾で彩られていた。樹々の枝にカボチャのランタンやオバケ、魔女のシルエットのオーナメントがぶら下げられ、煉瓦には顔がついた大小のカボチャが置かれ、目や口の穴から紫色の光を漏らしている。中には魔女のとんがり帽子をお洒落に被っていたり、雪だるまのように積まれたものもいた。
普段であれば存在しない偽物の墓標や棺桶が立てられ、スライドするように蓋が開かれた棺桶からは、ガイコツやオバケの模型が覗いていた。その頭上には、おびただしい数のコウモリのステッカーが掲揚されている。ファンシーなデフォルメだが、夜風に吹かれてゆらゆらと揺れていると何だか不気味で、本物だと錯覚しそうになる。
マズルカの家を訪ねたこと、一緒にいたオバケ姿の少年の存在を頭から抹消された二人の少年は、仮装した子供や大人の間をすり抜けながら、ごっこ遊びに夢中になっていた。
狼男の少年が両腕を上げ、「がおー」と唸れば、吸血鬼の少年も、玩具店で父親に買ってもらった作り物の牙を誇示しながら、「うおー」と叫んでみせる。狼の少年がしゃがみ、「わおーん」と遠吠えしてみせれば、吸血鬼の少年はマントを大きく広げ、「血を吸わせろー」と狼の彼に飛びつく。そうやって戯れ合っているのがとても楽しくて、二人はカラカラと笑いながら可愛らしい戦いを繰り広げていた。
その時だ。オレンジ色や紫色の電飾で煌めく広場に、さらに灯がともった。その柔和な眩さに少年達が反応する。身を起こし、空を仰げば、二人は揃って目を輝かせた。
「わぁーっ!」
広場にいる人々の目に映ったのは、いくつもの光玉だった。
大小様々なそれは淡い輪郭を有し、まろやかな光を宿し、人々のはるか頭上でトランポリンに乗っているように軽やかに跳ねていた。ふわり、ふわりと上下に動いたり、光玉同士がぽよん、ぽよんとぶつかったり……。
大人達は突然の超常現象に「何だ何だ」と驚き、ざわつくが、子供達の反応はまるで違った。幻想的な光景に目を奪われ、心を虜にされていた。
「わーっ! すごいっ!」
「とっても綺麗! キラキラしてる!」
「ねぇ、パパ! あれ捕まえてよ! 触ってみたいー!」
興奮と歓喜に満ちた声という声で、広場は埋まっていく。少年達も非常に高揚し、光玉と同じようにぴょんぴょんと飛び跳ね、きゃあきゃあとはしゃいだ。籠の中のお菓子が揺れる。時折、ポップコーンが弾けるように飛び上がっては、元いたお菓子の海にダイブする物もあり、それらもまた至極楽しげだった。
それらは、マズルカが体内から逃がした99人の子どもの魂だった。
ハロウィンを満喫中にマズルカの家を訪ね、眠らされて殺された彼らの魂は、当時の思いのままマズルカの身体に取り込まれていた。
光玉となった今、賑やかな雰囲気に包まれて、彼らもまた無邪気にはしゃいでいるのだ。人間には聞こえないだろうが、ケラケラ、カラカラと楽しげに笑う声があたり一面に響き渡っていた。
けれども彼らは、マズルカの魔法で逝くべき場所を示されている。やがて光の玉はすうっと輪郭を失っていき、シャボン玉が弾けるようにぱっと消えていった。……99人の魂は星が燦然と輝く夜空へと、昇っていったのだった。
彼らは、地上の人々に粋な贈り物を遺していった。
英国のとある童話の妖精を思わせる、何よりも美しく輝く金の粉が空から降ってきた。さらさら、キラキラと舞い落ちてくる無数のそれらは、広場すべてを夢幻的な世界へと変え、まるでスノードームの中にいるような美しさを作り上げた。
その輝きをうっとりと見上げ、全身に浴びながら、子供達は勿論のこと、大人達も「俄かには信じられないが」と胸のうちで前置きをしながらも、こう感嘆したのだった。
まるで魔法のようだ、と。
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