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第1話
俺の時間はあとどれくらい残っているのだろうか。
どれぐらいで俺の時計は止まってしまうのか。
怖くて、とてつもなく怖くて。
けれど、その恐怖を無理やり押し殺して可能な限り現場に立つことを選んだ。
彼に出会ったのは、そんなときだった――――。
*
「北見(きたみ)先生、あなたに担当してもらいたい患者がいるのですが……」
S総合病院の院長が俺に話を切り出したのは、本格的な冬の到来を感じさせる寒い日だった。
「私の知り合いの息子さんで――」
「院長」
話を続けようとする院長を遮り口を開く。
「どうして私に? ……院長はご存知でしょう? 患者を任せられても、おそらく……最後まで責任を持って診ることはできません」
テーブルの上で組んだ手に視線を落とすと、一枚のカルテが俺の目の前に差し出された。
「この患者……和久井(わくい)ロイくんは、北見先生と同じ病を抱えています」
「――――」
驚愕し目を見開くと、重い声で院長が話を続ける。
「進行状態も北見先生とほぼ同じくらい……余命一年といったところです」
俺は目を閉じ、軽く頭を横に振ってからカルテに視線を落とした。
『和久井ロイ 19歳』
そう書かれたあとに病名が記されている。
それは確かに俺が背負っている病気と同じで。
自分より一回り下の少年の運命に胸が痛んだ。
「……この子は自分の病気について知らされているんですか?」
「いえ。詳しいことは知らないはずです。ロイくんには貧血と話してあるだけだと、彼の両親は言ってましたから。……で、どうでしょう。ロイくんの担当医を引き受けていただけますか?」
院長の問いかけに、少し逡巡したあと答えを紡いだ。
「分かりました」
その少年の担当医を引き受けたのは、同情だったのかもしれない……自分よりもはるかに年若い彼が同じ運命を背負っていることに対しての。
こうして俺は彼と……ロイと、出会うことになった。
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