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第2話
701号室 和久井ロイというプレートがかかった個室の扉をノックしてから、中へと入る。
付き添いなのであろう男性と談笑していた少年がこちらを見た。
その少年に微笑みかける。
「和久井ロイくんだね? 初めまして。君の担当医の北見です」
ロイは一瞬ポカンと口を開け、俺を凝視したあと慌てたように挨拶を返してきた。
「あ、よ、よろしくお願いします」
ぺこりという擬音がついてそうなお時期をする。
とても綺麗な子だった。
透き通るような白い肌。大きな瞳と小さな顔。触り心地がよさそうな艶やかな茶色みがかった髪。
背中に翼をつけたらそのまま天使になりそうだ。
思わず見惚れていると、付き添いの男性――俺と同年代の爽やかな体育系のイケメン――が、深々とお辞儀をしてきた。
「先生、よろしくお願いします」
声をかけられて夢見心地から覚め、男性に問いかける。
「こちらこそ。えーと……お兄さんですか?」
そう問いかけたものの、ロイと男性はまったく似ていない。
俺の質問に答えたのは、ロイの方だった。
「あ、違います。お父さんの会社の人です。お父さんとお母さんは夜にならないと来れないから、それまで僕のお守りを頼まれてるんです、格造さんは」
「ああ……そうなんだ」
「格造さんって、会社では超エリートなのに僕にはすっごい過保護で、ちょっと困るくらい。僕ももうすぐ二十歳になるのに」
そう言って拗ねたように口をとがらす顔はとても幼くもうすぐ二十歳になるようには見えない。
一見、人見知りしそうな雰囲気をまとっているが、どうやらロイは人懐っこい性格のようだ。
「明日から少し検査が続くんで、今日はゆっくり休んでおいてね、和久井くん」
「あ、ロイでいいです」
「……じゃ、ロイくん」
「はい! 北見先生」
元気よくうなずくロイ。
その笑顔は無邪気で屈託がなく、俺の心をポカポカと暖めてくれたが、同時にあと一年で消え去ってしまうものかもしれないと思うと、どうしようもない焦燥感にも駆られたのだった。
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