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第27話
タクシーに乗り込みロイと肩を並べて自宅マンションへと向かいながら、俺は生命の不思議について考えていた。
ロイの二十歳の誕生日の夜――二人が初めて一つになり、お互いの気持ちを確かめ合ったあの夜。
あの夜を境に二人の病気の進行は止まった。
完治したわけでは勿論ない。
でも、病状が悪くなることもない。小康状態が続いているのだ。
はっきり言ってこれは奇跡と言ってもいい。
隣で屈託なく笑う愛する人を見て、思う。
ロイは俺の病気のことを知らないし、話すつもりもない。
だって君にはいつも笑っていて欲しいから。
いつまでこの平穏で幸せな状況が続くのかは分からない。
不安がないと言えばそれは嘘になってしまうけれども。
今、この瞬間、君が隣で笑ってくれている。
それが何よりも幸せだから。
俺もまた心からの笑顔を取り戻すことができた。
ありがとう……。
「おじゃま、しまーす……」
俺の自宅マンションへ着いたとき、ロイは緊張気味にそう言って玄関をくぐった。
そんな彼を見て俺はふきだした。。
「ロイ。今日からここが君の家なんだからお邪魔しますは変だろ?」
「あ……じゃあ……ただいま……?」
「なんで疑問形なんだよ」
「だって。なんだか照れくさいんだもん」
「ほんとかわいいんだから。ま、いいや。とにかく入って」
「うん」
二人はリビングへ落ち着く。
そこでロイが目ざとくがあるものに気づく。
「学、あの時計」
「ああ。うん。電池、入れたんだ」
ずっと止まっていた時計に新しい電池を入れ動かしたのである。
それは俺が生きることを……ロイと二人で人生を歩いていくことを決めた証だった。
カチカチとときを刻む時計を見て、ロイが目を細めて言葉を紡ぐ。
「やっぱり時計は動いているほうがいいね」
「そうだな」
俺もまた時計を見つめて小さくうなずいた。
了
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