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甘い罠6 西園寺side

マツバは恍惚とした表情で頷くとうつ伏せになった。 上体を倒して尻を持ち上げると、こちらを振り返ってくる。 「旦那さまぁ…」 マツバにしては珍しく鼻にかかる甘えた声を出すと、両足を開き自らの指で後孔を広げる。 赤く腫れた襞から白濁がごぷっと音をたてて溢れ、中の媚肉が妖しげに蠢くのが見えた。 「マツバはまだ奥が切ないです…旦那さまに…いっぱい擦ってもらわないとおさまりません」 普段のマツバなら決してしないような淫らな誘いに堪えきれず、西園寺はフッと満足げに笑った。 西園寺がマツバに持ってきた差し入れには、そもそも媚薬なんてものは入っていない。 ただ少しばかり値の張るチョコレートというだけだ。 プラシーボ効果というものだろう。 例えば、本来効力のない成分の偽薬を投与したにも関わらず症状が和らいだり回復したりする現象の事。 所謂思い込みが作用する心理現象の事だ。 つまりマツバは今、何でもない普通のチョコレートを食べて、媚薬だと思い込んで乱れているのだ。 西園寺がこんな事をしたのには理由があった。 アザミだ。 アザミはなるほど売れっ子なだけあって、見た目はもちろん仕草や振る舞いは男を誘惑するそのものだった。 しかし、いざ床入りしてみると全くもって食えない奴で、それどころか西園寺を(たばか)ろうとまでしてきたのだ。 「客を喜ばせるためなら演技もする、当然マツバも」 まるでマツバが西園寺の前で演技をしているかのような言い草に、あり得ないと断言したもののやはり少し気がかりで。 他の男娼なら演技などいくらでもできるだろうが、マツバならきっと媚薬だと聞かされても演技などできないと見込んでの仕込みだった。 しかし、マツバの反応は西園寺の予想を越えるものだった。 まさか何の効果もないものでここまで乱れるなんて思っていなかったのだ。 「純真無垢ゆえ、か…」 目の前で早く、早くと強請るように揺れる尻を撫でながら西園寺は口端を上げた。 結局こうしてマツバの真意を測るような真似をしているのだから、やはりあの男娼の口車にまんまと乗せられた事に違いない。 「まぁ、思いがけずいい思いをしたのだから今回は俺の負けでもいいか。それにあれもまた俺と同じ穴の(むじな)らしいしな」 西園寺は気づいていた。 マツバを思う西園寺に抱かれる最中、あの妖艶な眼差しが時々襖の向こうに注がれていた事に。 西園寺はマツバの腕を掴むと自分の膝の上に乗せた。 快感に染まる顔を確かめるようにじっと見つめる。 目元を赤く染め、蜂蜜のように蕩けた瞳をしたマツバはやはり媚薬を本物だと思い込んで本気で乱れているようだ。 「旦那さま………っ旦那さまぁ…」 すると突然マツバが勢いよく西園寺に抱きついてきた。 拍子をつかれ、支える隙もなくマツバに押し倒される形で後ろへと倒れこむ。 気がつくとその小さな唇に自らの唇が塞がれていた。 思わず開いた唇の隙間から舌を差し込まれ、ほんのり甘い吐息が西園寺の思考を熔かそうとしてくる。 首に腕を絡ませ夢中になって唇に吸い付くマツバの好きにさせながら、西園寺は不敵な笑みを浮かべた。 前言撤回。 やはり俺の勝ちだ、アザミ。 end.

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