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お仕置き

「それで、前の客の名残を残したまま俺の相手をしようとしていたわけか。マツバは」 いつになく突き刺さるような刺々しい西園寺の言葉にマツバは身を縮めて「申し訳ございません…」と謝った。 「いいや、今日は許さないぞ」 西園寺はそう言うと、畳に額を擦り付けて平伏すマツバの腕を掴むと強引に立ち上がらせた。 腰紐のほどけた襦袢の前がはらりとはだけて、マツバの肌が露になる。 いつもなら何も身につけていないはずのマツバの股間は、薄いサテンとレースのあしらわれたかわいらしい下着に包まれていた。 西園寺が来店してくる少し前のこと。 マツバは張見世の中でそわそわとしていた。 いつもなら店開きの開門と同時にやってきて、マツバを指名してくれる西園寺の姿がなかなか現れないからだ。 他の娼妓たちが次々と張見世から姿を消していく中、マツバは不安げに門の向こうを見つめていた。 まさか彼の身に何かあったのだろうか… それとも… 悪いことばかりが次々と頭に浮かんでは消えていく。 「マツバ、指名だ」 その時突然男衆に呼ばれて、マツバはハッとして顔を上げた。 しかし、そこにいたのはマツバの待つ人物とは程遠い人物だった。 御歳80になるという男は、腰の曲がった白髪頭の老人だった。 失礼だがこんな年寄りに床入りをする力があるのだろうかと思ってしまうほど男は痩せ細っていて、よぼよぼと杖をついて歩いている。 西園寺の事は気になって仕方がなかったが、だからといって客の指命を断る事もできない。 客が大金を払ってくれる以上、どんな相手でも務めを果たさなければならないのがマツバの仕事なのだ。 高齢の老人を相手にした事がないマツバは些か不安だったが、男の希望である洋風の蜂巣(ハチス)に来ると、ベッドの上で三つ指をついて挨拶をした。 「マツバツバキと申します」 年老いた客の男は、シワだらけの優しげな顔をくしゃくしゃにしてマツバに笑いかけてきた。 「わしはこの通り老いぼれ爺だ。残念だがあんたと交わる体力はもうない。但し見て楽しむ事はできる。わかるね?」 ベッドの上で首を傾げていると、深い皺の刻まれた瞳が欲の色に光るのがわかった。 着物の上から舐めるような視線を浴びて、マツバは思わずビクンとしてしまう。 もの柔らかな雰囲気を漂わせているが、きっと絶頂期には色事が寄ってくるほどモテていたに違いない。 「……かしこまりました」 そうしてマツバは男の望み通り、布地面積が極端に少ない女性向けデザインの下着をはかされたのだった。

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