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西園寺が何もせずに寝てしまった日の話2
力の抜けきった西園寺を布団まで運ぶのはかなり大変だったが、マツバは男衆の手を借りずに何とか一人でやってのけた。
ふぅ、と息を吐くと額の汗を拭いながら西園寺の寝顔を見つめる。
やはり相当疲れていたのだろう。
マツバが四苦八苦している最中も、西園寺は一度も目を開けなかった。
もしかしたらこのまま朝まで眠ったままかもしれない。
そう考えて、どこかでガッカリしてしまっている自身に気づく。
しかし、すぐに邪心を振り払うように頭を振った。
マツバは西園寺と一緒にいれるだけで幸せだと思っている。
西園寺以外の男の相手をする方が圧倒的に多い中、毎週金曜日のこの数時間は貴重で特別な時間だ。
しかし、だからこそより西園寺と深く繋がりたいと思ってしまうのだ。
彼の眼差しや口調、息遣い、脈動、熱…
それらを全部いっぺんに感じる事ができるから。
そうすれば、たとえ西園寺に会うまでの間、他の男に何度抱かれようとも耐えることができる。
西園寺と深く繋がった思い出があればどんな事があっても頑張れるし、乗り越える事ができるのだ。
しかし、今日はそれができない。
つまりセックスはお預け。
そう考えると、やはり心のどこかで残念な気持ちが芽生えてしまうのだ。
しかし、眠っている西園寺を起こして「抱いてください」なんて言えるわけがない。
いくら男娼の身とはいえ、西園寺の前では慎ましくいたいのだ。
こうなったら一緒に眠ってしまおう。
マツバはこれ以上邪な考えが生まれないよう寝る事にした。
しかし、布団に入ったはいいものの眠気は全くやってこない。
当然だ。
まだ起きて数時間しか経ってない上に、|運動《・・》だってしていないのだから。
しかも隣には西園寺がいる。
いつもだったら今頃…と思うと妙に疼いてしまい、逆にギラギラと目が冴えてきてしまうのだ。
マツバはそっと身体を起こすと、隣で寝息をたてる西園寺を覗きこんだ。
いつも強い眼差しを向けてくる瞳はきっちりと閉じられ、睫毛のベールに覆われている。
彫刻のような高い鼻梁、骨格、唇。
どこをとっても完璧で、見れば見るほど男前だ。
政治家も立派な仕事だが、芸能人やモデルといってもおかしくない容姿をしている。
寝顔に見惚れていると、突然西園寺がマツバの方へ寝返りをうった。
一瞬目覚めたかと思ってドキドキとしたが、西園寺は再び寝息をたて始める。
マツバは布団に潜り込むと、更に近くなった男前の寝顔を見つめた。
きっと西園寺が起きていたらこんな風にまじまじと見つめる事はできないだろう。
あの眼差しに見つめられると、恥ずかしくてそわそわとして、いてもたってもいられなくなるから。
チャンスだとばかりに西園寺の顔を見ていると、ふと唇が僅かに開いているのに気づいた。
マツバはゴクリと唾を飲み込むと、その肉厚で形の良い唇を凝視する。
キスぐらいならしてもいいのではないだろうか。
そんな考えが頭を過ぎってしまった。
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