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すべすべの※

「なにこれ!すっげえ美味い!」 「そ、そう………」 「翔って天才だったんだな!うわ、これも美味い!」 「静かに食べなってば………」 隣に座り俺の作った弁当にがっつく学校1のイケメン だがその姿は本当に学校1の人気者で超が付くほどおモテになる男か疑いたくなるほど子供みたいだ 一口食べるごとに大きな声で感想を言って、また食べる 咀嚼がえらく早いみたいで、同じ量の弁当を食べているはずなのにおかずの減るペースが異様に早い 「ゆっくり食べろよ……」 「だって!すげえ美味いの!」 「大袈裟だってば………」 「大袈裟じゃねーの!!」 俺の言葉に首をぶんぶんと横に振って否定するアキ いちいちリアクションの大きい奴だ、と思いつつこんなに喜んでもらえていることが内心嬉しく思う それから俺が弁当を半分ほど食べた頃にはアキの弁当箱は米粒ひとつ残らず空っぽになっていた まだ物足りなさそうな顔をしたアキがひもじい子犬みたいに見えて少し俺のを分けてやると、まるで尻尾をぶんぶん振り回しているみたいに喜んだ 「はー、ごちそうさま!すっげえ美味かった!」 「はいはい、何回も聞いたって……」 「な、また作ってな!」 「はいはい」 空になった弁当箱を閉じ、布できゅっと結ぶ にっこりと笑って手を合わせるアキが隣で上機嫌に鼻歌を歌い出す 弁当箱はアキが洗って返すからと頑なに言うので、しぶしぶそれを承諾した 別にそんなの気にしなくていいのに……… そう思いつつも律儀な所が男らしく感じて悪い気はしなかった 時計を見るとまだ次の授業までそれなりに時間がある はじめての屋上で内心テンションの上がっている俺は、弁当箱を地べたに置き立ち上がると屋上の端まで行って下を覗いてみる 「うわー、たっけー…」 「翔、ここ柵無いから気をつけてな」 「ん、大丈夫だって」 「足滑らせたりとかするなよ!?」 「もー、分かってるって」 下を覗き込むとそこは校庭の芝生 ちらほらと芝生に寝転がるやつや走り回るやつなんかが見える こんな柵やガラス無しに下を見るなんてはじめてかもしれない 昔からジェットコースターみたいなスリルのあるものが好きな俺からしたら怖くなんてないが、さすがにこれは少し震える 「あ、健いる、めっちゃ走ってる」 「あはは、健意外と足はえーんだよな」 遠くの方の渡り廊下で猛ダッシュする健の姿を見つける それを指差して壁側に背中を向けて座るアキに教えると、落ち着いた様子で笑っている 「健ー、がんばれー」 「翔、それ以上行くと危ないからな」 「大丈夫だって、たけっ………」 「翔!!」 健を応援しようと身を乗り出した その時だった ずるんっと手が滑り俺の体が一気に屋上の無い柵を越えてしまう 一瞬の出来事に頭が追いつかない やっとのことで頭の理解が追いついた時には、自分にはどうしようもない状態で やばい 「翔っ!!!」 そう思った瞬間アキに手を握られ一気に引き戻された 気付くと俺は寝そべるアキの体の上 うつ伏せの状態でアキの胸に乗っかっている 目の前にはアキの顔 温かい吐息が顔にかかるくらいに、俺たちの距離は近い さっきから忙しなく働く脳みそは既にパンクしていて、また状況が理解できなくなる 「うわあああああよかったぁ………!!」 すると突然アキが叫び、乗っかる俺の体に腕を回して抱きしめた そして安堵のようにも見える大きなため息を吐く まだ状況を理解しきっていない俺は目を丸くしてアキを見つめる 「もう!心臓止まるかと思ったぞ!」 「あ………ご、ごめん………………」 「もーっ!びっくりさせやがって…!」 アキに言われてはじめて、俺が屋上から転落しそうになったことに気が付いた そしてそれを、間一髪アキに救われたことも おっ、俺……!死ぬとこだった…………!! 依然アキの胸でうつ伏せのままぎゅっと抱かれている どくんどくんと、通常の脈よりも大分速い鼓動がアキの胸から聞こえてくる 「ご、ごめんアキ………ありがと……」 「せっかく出来た恋人2日目にして失うとこだったぜ」 「う…………ごめん…」 「ん、もう落ちちゃだめだぞ、な?」 アキに謝ると優しく諭すように注意を受ける それにこくんと頷くとアキはあー!と叫んで俺の体を強く抱きしめゆらゆら揺れる 今になって冷や汗が溢れてくる体を起こし、アキの上から退こうとする これ以上くっ付いてちゃもっと汗だくになりそうだ そう思い腰をぎゅんっと反るようにしてアキから離れようとすると、バチっと視線が重なる 熱を感じるような視線に、思わず目が離せなくなってしまう 「ア、アキ………?」 「翔…………」 「あ、あの………ちょっ……」 するとアキも俺に合わせるようにして体を起こし始める 俺をじっと見つめたまま、どんどん顔が近付いていく さっきよりももっと速く心臓が動く チ、チューされるっ………! 俺の脳みそがそう判断し、とっさに両目をぎゅっと強く瞑った どきどきと鼓動が高鳴る 「翔の肌、すっげえ綺麗」 「…………………………………え?」 だが俺の想像とは裏腹に俺に触れたのは唇ではなく大きな手だった しかもそれも俺の右の頬に 瞑っていた目を開けると、目の前でアキがニヤニヤして笑っている 「キスされると思ったでしょ」 「なっ……!」 「オレは翔の肌が綺麗だなって思って見てただけなのに、翔ったらスケベ〜」 「スケ……っ!?」 そう指摘され一気に顔が熱くなる 視線をどこに置いたら良いか分からなくなってきょろきょろ目が泳ぐ 恥ずかしい勘違いをしてしまった俺は、体を動かすことさえできないくらいに震える 「翔の肌、すげえ綺麗なのな」 「なっ、なんだよ…!」 「ほら、超すべすべ、どうしたらこんなになるの?」 「しっ……知らない!!」 だが俺の爆発寸前の羞恥をよそに、アキは俺の頬をその大きな左手でするすると撫でている 余った右手で自分の肌と比べるように自身の頬を撫でて首を傾げている そんなアキの手を振り払い俺はアキの上から退いた アキがあー、と名残惜しそうに手を伸ばしている 「き、教室戻る!!」 羞恥レベルがいよいよマックスに達してしまった俺は、寝そべるアキを残して早足で屋上から立ち退いた 一度弁当箱を忘れて、それを取りに戻りまた立ち入り禁止の扉に手を掛け俺はアキを置き去りにした もうっ……!俺スケベじゃない!! 真っ赤になった顔を隠しながら俺は教室へと走った その日から、風呂上がりに姉ちゃんに買ってもらった化粧水を毎日塗るようになった 別に褒められたからとか、そんなんじゃないけど

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