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イチゴのリップ

「翔の背中、細くて綺麗」 「ぅあっ……ちょ、そんなにいっぱい…」 「翔はオレのもんだぞってしるしなの」 外したゴムをゴミ箱に捨て、俺の濡れた体を軽くタオルで拭くアキ そんなアキにされるがままべたりとうつ伏せでベッドに寝転んでいると、Tシャツをぺろりとめくられ背中や腰にちゅ、ちゅっと痛気持ちいいキスをいくつも落とされる 所謂キスマークというものをこれでもかと言わんばかりにたくさん付け、時折ぺろりと背中に舌を這わせてくる 「ねぇやだ………口にもしろ………」 「ごめんごめん」 「んっ……………」 背中ばかりにキスをするアキにだんだんやきもちを焼いた俺は、ごろんと仰向けになり上体を起こして唇をんっと尖らせる アキは困ったように眉を下げて笑い、そして俺の唇にもったりとしたキスを寄越す すると唇にちくり、小さな痛みを感じる とっさに唇を離して指先で触れると、人差し指に小さな血の跡が残っている 「あ…………唇の皮剥けちゃった」 「うそ、チューのしすぎ?」 「絶対そうだろ、アキのせいじゃんか」 「え、キスしてって言ったの翔なのに」 唇をぺろりと舐めてみると血の味が口に広がる アキをじっと見つめて威嚇する猫のように睨むと、アキはおどけたような態度でえー、と頭を掻く そんなアキをもう一度じっと睨むと、今度は戸惑ったように取り繕いごめんごめんと謝ってくる 「明日リップクリーム買ってやるから、匂いのするやつ」 「………チューの回数減らすって選択肢は?」 「ないです」 おどけたような表情から一瞬にして妙なキメ顔になり即答するアキ だが途端にそのキリッとした表情も崩れ、ぷすっと吹き出して笑い出す そんなアキに釣られて俺もくすくすと笑いが出て止まらなくなる そもそも匂いのするやつって何なんだ 俺は匂いがしなくて、塗るとスースーするリップの方が好きなのに それにチューも全く減らすつもりは無さそうだし、必死に即答してくる割にすぐに吹き出しちゃうところもどこかかっこ悪くて でもそんなアキが愛しくて 「んっふふ………むり、お前おもしろ……っふふ」 「ふふ、笑った翔はイチゴの匂いのリップの刑な」 「やだ………っ、絶対やだ……んふふっ」 並んでベッドにごろんと寝転び、くすくすと腹を抱え一緒になって笑う アキのジョークも何だか本気のように聞こえてきてうざくてますます面白くて、アキの胸をバシバシと叩いて必死に笑いをこらえる さっきまで性に溺れていたとは思えない、バカでまぬけなピロートーク だけどそんな面白さが、俺の心の中のほんの少しの寂しさを紛らわせていく アキの心の中の寂しさだって、きっと少しは癒えているだろうと思いたい 「じゃあ今日はオレが舐めとくか」 「ちょっ、いやだバカ………んっ」 「あ、ちょっと血の味する」 アキがそう言って俺の唇をぺろりと舐め、いたずらに笑う そして一度起き上がって立ち上がり開いたカーテンをシャッと閉める 「疲れたろ、そろそろ寝よっか」 「ん……笑い疲れた」 「あはは、オレも!」 笑いながらアキがベッドにダイブして、俺の横に潜り込んできた アキがダイブした衝撃でぴょこんと体が跳ねる そのまま大きなタオルケットを俺と一緒に体の上に掛けて寝そべりくっ付いてくる そのままアキと優しく唇を重ねる ちゅっと音を立てて離れたかと思うと、アキが勢いよく俺の唇に吸い付き深くて甘いキスで血を上塗りされる 「………おやすみ、翔」 「……………ちょっと待って」 「お?どうかしたか?」 照明のリモコンを持って電気を消そうとするアキを止める そしてずりずりと体ごと下に下がって、アキの胸元にぢゅっと強く吸い付く 唇を離して確認すると、そこにはこぢんまりとした不細工な形の赤い痕 俺のはじめてのキスマーク 「…………………よし」 「え、翔、これ……………いたっ!」 その場所をさすりながらキョトンとしてパチパチと瞬きを繰り返すアキと目線を合わせ、そしてバチンとデコピンを食らわせる 「………いつもアキがしてくれるから」 「〜〜〜〜〜〜っっ!!」 アキにぎゅうっときつく抱き締められる ちょうど口の前にアキの肩があったので、それをがじがじと噛んで歯型もサービスする するとアキはうふふと嬉しそうに笑う 「オレが翔のものだってしるし?」 「………ん」 「ふふ、オレすっげえ嬉しい」 「…………………ん」 そしてもう一度だけ優しくキスをする 目の前にいるアキの穏やかな笑顔を見ると自分まで心が温かくなった アキが部屋の照明のリモコンを握り、お互いの顔がぼんやりと見えるくらいの薄暗い照明に変える 「静磨にもオレの幸せ、分けてやれたらいいのにな」 「………六条くんには六条くんの幸せがあるよ」 「ん、そうだな……………」 ぎゅっと抱き寄せられたまま、俺の胸に顔を埋めてアキは曇った声でそう呟く 「だけどもし六条くんの幸せが学校に来ることなら……」 「ん…………」 「支えて背中を押してあげような、一緒に」 「うん………ありがと、翔…………」 そう言ってアキの温かくて大きな体をぎゅっと胸に抱く お互いの体温が混ざり合って、人肌の心地良さというものを改めて思い知る どうか六条くんにもアキにも、そして健にも 大きな幸せが訪れますように 仲間外れの俺にはそんなことを願うことしか出来ないが それでも俺の願いがどこかに届いてくれるように、ぎゅっとアキの体を抱きしめて目を閉じた

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