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夏休みカウントダウン
夏休みまであと3日
いよいよ本格的に夏が始まるような気がして俺、高村翔の心はウキウキしている
もちろんウキウキしているのは俺だけでなく、クラス全体が、いや、学校全体がどこか浮き足立っているような状態と言っても過言ではなさそうだ
「高村は夏休み、地元帰んの?」
「ううん、今年は父さんの仕事忙しいみたいで」
「そっか、なぁ、地元に可愛い幼馴染とかいねえの!?」
「んはは、残念、俺の幼馴染は全員男だよ」
その日の中休み
前の席の山本が体ごとくるりとこちらを向き、ご機嫌そうに尋ねてくる
どうやら俺の幼馴染が可愛くて世話焼きで巨乳でツンデレな女子だったら紹介してもらおうと思っていたらしく、俺の回答に山本はなんだぁと落胆している
夏休みかぁ…………
俺にとってはじめての、東京での夏休み
東京の学生は、1ヶ月以上ある夏休みをどこで何をして過ごすんだろう
俺は今までの夏休みを地元で祭りに行ったり川遊びをしたり無難に過ごしてきたが、やっぱり今時の都会の若者はクラブに繰り出したり、ナイトプールではしゃぎ回ったりするもんなのだろうか
「な!高村も夏休み、海行かね!?」
「へっ?」
「だから海!クラスのみんなで行こうって話してたんだ」
「あ、ああ、海な……!」
するとそんな俺の想像を遥かに下回る、山本からの無難なお誘い
キラキラと輝く瞳で俺を見つめる山本が言うには、仲の良い数名と話し合ってクラスメイトを全員誘って海に行く予定を立てているとのこと
な、なんだ…………
クラブとかナイトプールとか行かないのか
よかった………ああいう所って所謂パリピがいっぱいいて怖いもの
「何話してるんだー?」
「おっ輝!丁度いいところに!」
「ん?」
「クラスのみんなで海に行こうって誘ってたんだ!」
すると学級委員の仕事で提出物を職員室に届けに行っていたアキが帰って来て、にっこりと微笑みながらナチュラルに俺の肩に手を回す
アキの姿を見るなり山本は待ってましたと言うように更に瞳を輝かせ、アキにも俺と同じ話を持ち掛けにこにこ笑っている
アキと海……………
アキは海、好きかな
アキは海、行きたいかな
行くとしてもクラスのみんなと一緒だと言うのに、俺の頭の中はすっかりアキと海に行く想像ばかり
アキの水着姿を想像すると、裸なんていつも見ているはずなのになぜだか頬が赤く染まる
「海か、いいな!」
「だろ?女子に、輝は絶対誘えって言われてんだ!」
「あはは、そうなんだ、翔はどうする?」
「お、俺は……」
アキをじっと見上げて2人の会話を黙って聞く俺
山本が“女子”と言ったことに思わず俯いてしまうが、アキはまるで眼中にないかのようにさらりとそれを受け流す
そんなアキをもう一度じっと見上げると、アキは会話から外れていた俺を引き戻すようにしゃがみ穏やかな様子で問い掛ける
俺と話す時だけ姿勢を低くしてくれるアキ
覗き込むようにしてくる仕草に特別感を覚えて、心の中で優越感に浸る
「な、翔は海行きたい?」
「うー………」
「オレと一緒なら行く?」
「………………………うん」
俺を見下ろさないようしゃがんだアキが、誰にも見えないように手をぎゅっと握ってくる
そしてその手をにぎにぎと揉みほぐしながら俺に優しく尋ねるアキ
そんなアキの優しげな瞳をじっと見つめると、ん?と甘い微笑みを返される
それが嬉しくてかっこよくて可愛くて、俺はゆっくりと縦に頷いた
「お!じゃあ2人も参加な!」
「ん、よろしくな!」
「これで輝が来ないって言ったらオレ、女子にボコボコにされてたぜ」
「あはは、大袈裟だよ!」
山本が男っぽい字でノートに俺たちの名前を書いていく
そこにはかなりたくさんのクラスメイトの名前が記されていて、これは楽しくなりそうだと心が躍った
健と静磨の名前はまだ無さそうだが、きっと2人も来てくれることだろう
隣にいるアキは山本ににこにこと笑顔を向けながら、ずっと俺の手をにぎにぎしている
右手だけ暖かくなった俺は左手もと言わんばかりにこっそり差し出して、内緒のマッサージを受ける
「お前らから健と六条も誘っといてくれよ」
「お、分かった!聞いてみるな!」
「ん、頼むぜ、あっ、黒田〜!輝来るって!」
山本の声に2人して頷くと、山本は今回の幹事である黒田を見つけるなり駆けて行った
やっぱりアキは、誰もが憧れる人気者でクラスの中心人物なようだ
そんな人気者のアキこと広崎輝は、俺の席が端っこなのをいいことにしゃがんだまま俺の太ももにこてんと顔を乗せてくる
そして甘えん坊の子犬のように俺の太ももにぐりぐりと顔を擦り寄せて、不意にじっとこちらを見上げる
「もう………教室で甘えるなって……」
「な、しょーう………」
「な、なんだよ……………」
「後でさ、渡したいものあるんだ」
「?」
教室の端で俺に甘えるアキの耳をきゅっと引っ張って遊んでいると、アキが至って穏やかな口調で俺にそう言い放ち軽やかに立ち上がった
それと同時に2限目開始のチャイムが鳴り、アキは早足で自分の席に戻って行く
バラバラに散っていたクラスメイトたちも慌てて自分の席に座り、担任の海老名先生の方へと体を向ける
隣には静磨の席に遊びに行っていた健が戻って来ており、机の上に広げていた漫画を引き出しにしまってお気に入りの海老名先生をにこにこと見つめていた
「渡したいもの…………」
ざわついた教室でひとり、俺は自分にしか聞こえないほどの小さな声でそう呟いた
何をくれるのか、少しだけ心がどきどきと高鳴るのを隠すように俺は開いた教科書で顔を隠した
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※本日より連載再開致しました!
長らくお待たせしてしまいすみません…!
また、本日の連載より今まで毎日2回更新だったものを【不定期更新】に変更させて頂きます。
また本日より改めて、宜しくお願い致します!
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