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渡したいもの

昼休み いつものように俺とアキ、そして健と静磨のダブルカップルで集まり昼休みを過ごす 俺は手作りの弁当をアキに渡し、健には大きなおにぎりを渡す 静磨も丁寧に作られた手作りの弁当を広げ、おかずを健の口に放り込んでいる 「今日の弁当もうまそ〜っ!」 「これはな、昨日仕込んどいたの」 「ん!ありがとな!味わって食べる!」 「……ん」 アキがパチンと手を合わせ、俺の作った弁当をキラキラとした瞳で見つめる 無邪気な子供のような笑顔を浮かべるアキは、メインのおかずを指差してキャッキャとはしゃいでいる そんな俺に散々貢ぐアキのために俺が買った水色の弁当箱は、アキ用に少し大きめだ ついでにセットになっているお箸も長めできっと使いやすいはず 「あ!あのさ、夏休みに海行かねえかって誘われたんだけどさ」 「海!?行きたい行きたい!」 「この日なんだけど、2人はどうかなって思って」 「おれいく!海すきーっ!」 するとアキが弁当を広げ食べ始めるのも早々、先程山本たちから聞いた夏休みに海へ行く話を提案し出した そしてスマホのカレンダーを開き、山本から指定された8月上旬の日付を指差して詳細を細かく説明していくアキ この物覚えと段取りの良さも、アキの褒められるべき一面だ すると“海”と聞いた瞬間、健はバンザイをして喜び飛び跳ね出す どうやら健含めクラスに数名いる補習受講者のために、日付は補習のない日を選んでくれているそう 「ね!静ちゃんも行くよね!?」 「……………悪ィ」 「へ………?」 それを聞きますます歓喜した健は、隣で黙ったままアキのスマホを眺める静磨の制服の裾をくいくいと引っ張る だがその静磨は、少し眉間に皺を寄せると申し訳なさそうな声色で謝罪をした その表情は至ってクールだが、健の力の抜けるような声を聞くと心を痛めるように眉を下げる 「静磨、都合悪そうか?」 「すまん、短期のバイト入れちまってんだ」 「バイトか………なら仕方ないよな…」 「悪ィな、せっかく誘ってもらったのに」 どうやら静磨は夏休みということもあり、短期のアルバイトの採用をすでに貰っているそう それを聞いたアキは仕方ないなと少し寂しそうに微笑むが、一方の健は途端に泣き出しそうな顔をし静磨を見つめる そして大きなおにぎりをゆっくりと机に置くと、唇を震わせて一度俯いた 「そ、そっかぁ!じゃあ仕方ないね…!」 「すまん、一緒に行ってやれなくて」 「う、ううんっ!全然!いいの!」 「…………すまん」 それでも次に顔を上げた時には、まるでお面でも被ったかのように明るい表情を作っていた そして仕方ないねとアキに同調し、謝る静磨を慰めている だがその様子をじっと見つめる俺には、健がわがままを言って静磨を困らせないために明るく振る舞っていることが丸わかりで、それに俺も心を痛めてしまう 健……………… バイトじゃ仕方ないけど、寂しいよな……… 「し、静磨の分まで楽しもうな!健!」 「うんっ!おみやげ買ってくるね!」 「あはは、海でおみやげって何買うんだー?」 「んっとね、あさり!」 そんな健の寂しさを誤魔化すように、俺は健の背中を軽く叩きながら言った 健が必死になって隠す本心が静磨に見透かされないように、俺もアキも健を笑わせようと努力する それを知ってか知らずか、健もにっこりと可愛い笑顔を静磨に向け自身に心配の目が向かないようにしていた 昼休みの後半 あと15分で次の授業が始まるその頃、俺とアキの2人は見晴らしの良い屋上にいた もちろんこの屋上には、生徒で唯一アキだけが持っている鍵で侵入 弁当を食べ終わると、アキに少しいいかと連れ出され今に至る 「どうしたんだ?わざわざ屋上まで来て」 「さっきさ、渡したいものがあるって言っただろ?」 夏の日差しが体を照らし、じりじりと肌を焼かれる 今年こそ小麦色の肌に日焼けしてダンディになるぞと意気込む俺だが、やっぱり暑いものは暑い 意思に反して皮膚から浮き出す汗に気付いたアキは、とっさに物陰へと場所を移して再び俺の方を見つめた “渡したいもの” そう言われてまずピンときたのはお金 俺がアキのために新しい弁当箱を買ったので、それに対して対価を払おうとしているのかも もしくは全く別の何か 俺をからかうようなアダルトグッズなんかも頭の何は浮かんでいる するとおもむろにアキがズボンのポケットに手を入れ、何かを取り出した チリン、と小さな鈴の音が聞こえたような気がする 「手出して」 「こう?」 「はい、これ、翔へのプレゼント」 「へっ…………?」 アキに指示され俺は、右の手のひらを上に向けてアキに差し出した するとその手にアキの左手が添えられ、そして俺の手のひらに何か冷たくひんやりとした無機物が置かれる え……………これ………………………… そのひんやりとした何かに視線を移すなり、俺は目を見開いて静かに驚いた

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