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真夏のアルバイト

「かき氷のいちごふたつ!」 「はいよ、800円」 「シロップ多めにかけてっ!」 「おう、サービスな」 ある夏の朝 俺は太陽の光を浴びて輝く海に出向いていた カウンターを挟んで目の前には小学生くらいの少年 その少年の頼みを快く聞き入れ、俺は堂々と赤いシロップを追加で掛ける 夏休みの短期アルバイト それがこれ、海の家だ 元々この海の近くに住んでいた知り合いに紹介してもらったアルバイト 日給1万円超えに賄い付き ついでに交通費も全額支給で子供同伴可 俺にとってこんなに好都合な条件はなかなか無い よって俺はこのバイトの誘いに飛び付き、真夏のビーチでかき氷を作っていたのだ そしてもう一度言うが、このアルバイトは子供同伴可 「しずにぃ!カニ捕まえた!」 「かいがら拾った!」 「ことみわかめひろった!」 つまりは俺の弟と妹、全員がこのビーチに来ていると言うことだ オーナーと俺にアルバイトを紹介した知り合いの粋な計らいで特例の子供オーケー 今までの夏休みもバイト詰めで弟たちを遊びに連れ出せなかったので、この機会にと言ってくれた 「お前ら、あんま遠く行くんじゃねえぞ」 「はーい!」 「新しいおみやげもってくるね!」 とことこと駆けて来た列の先頭の勇磨はカウンターに小さなカニを置き、続いて歩美と琴美がそれぞれ貝殻と1メートル以上ある海藻を置く そしてすぐに次の宝物を探しに砂浜へ駆けて行った 「元気ね、あんたの弟たち」 「……すんません、うるさくて」 「いいのよ、うちの弟よりずっと素直で可愛い」 そんな俺の隣には、もう一人アルバイトとして雇われた女性がいた 金髪のボブヘアに耳元に輝く多数のピアス 一目見ただけで印象に残りそうな大きな猫目 そして目のやり場に困ってしまう露出度の高いビキニに包まれた、人目を惹きつける肉体美 恋人がいる身で言うのもなんだが、ものすごく美人だ 名前はみさきさんと言うらしく、都内の大学に通う大学生とのこと 本人からは“姐さんと呼べ”と指示されている 誰かに似ているようか気もするが、思い出すことはまだ出来そうにない 「あ、うぅ〜〜っ、にに〜〜っ」 「お、赤ちゃん起きたよ」 「おう慶磨、よく眠れたか」 「にに、ぅ…にに〜っ」 するとそんな俺たちの会話を遮るようにカウンター後ろの小さな和室から泣き声が聞こえた その俺を呼ぶ泣き声にすぐさま反応し声の主を抱き上げると、不機嫌な様子は一変して俺にぎゅっと抱き付き人懐っこく笑っている これは我が家の末っ子、慶磨 まだ上手く歩けない甘えん坊の弟は、見事に他の兄弟に置いていかれカウンター後ろの和室ですやすや眠らせていたのだ 「ほら、まだ寝とけ」 「あぃ…………」 「よしよし」 「あんた上手いのね、子供の扱い」 「まぁあれだけいたら慣れるっす」 午前10時 これから少しずつ客の出入りも少しずつ増えてくるだろうと思いもう一度慶磨を寝かし付ける 慶磨は少し体を揺らして背中を絶妙なテンポで叩くと再びすぅすぅと寝息を立て始め、やがてこてんと眠りについてしまった そんな慶磨を再び元の位置に戻すと、俺はカウンターに置かれたカニと貝殻と海藻を回収する すると俺の手から歩美の拾った貝殻がぽろりと落ちた 虹色にも見える丸い貝殻 小さくて親指の爪ほどしかないそれは、少しでも強く握ればパキンと割れてしまいそうだ そんな貝殻を見ていると、急に健の顔が頭をよぎった 一緒に海に行けない俺にあさりを獲ってくると無邪気に笑った健 一瞬どこか悲しそうな顔をしたと思えば、張り付いたように笑顔を作っていた 健は今頃、みんなと楽しくやっているだろうか 「………………」 「どうしたの、急に怖い顔して」 「…………いや…………何でもねえっす……」 「ふぅん」 普段はあんなに子供のように無邪気なのに、いつも俺のために強がりをする健 そんな健を思うと、気付かぬうちに元より怖い顔が更に強張ってしまっていた それを指摘され必死に眉間のしわを取り除くが、それでも心の中に浮かび上がったモヤモヤが消えることはない 俺は、酷い男だろうか 寂しくさせないつもりでいたのに、また悲しませて 夏休みに入ってからも、一度も顔を合わせられていない そう思うと居ても立っても居られなくて、今すぐ健の元へと駆け付けたくなる 現実それが叶わないと分かっていても、心だけは健の元へと走り出す まさかあの後俺の願いが叶うとも知らず、俺はひたすら怖い顔で仕事に励んだ

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