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二、2人エッチは痛い 前

 僕は目を遣る。  隣で長い足を投げ出して座る人物に。  無造作にハーフアップにした脱色で少し痛んだ髪。  左右合わせて四つのピアスが着いている、髪の隙間からちらりと見える形のいい耳。  程よく焼けた肌。  すらっとした長身。  そして、僕の作ったスコーンを摘まむ長い指とそれを映す金色に近い瞳。    僕は溜息を吐くしかない。  不良の相手をしなければいけないからではない。  あまりのカッコよさに緊張してしまい、動きがおかしくなるから。その所為で体が凝って仕方がないのだ。  緊張するなら見なくてもいいのに、柊さんの姿を眺めては、柊さんに眺めていたことを気付かれて、ひやりと体が固まってしまう。そんな繰り返し。  竜ちゃんで見慣れていたはずなのに、竜ちゃんとは違い、色気のようなものを感じてドキリとしてしまう。    ――実際、この人は不良かもしれないけれど、不良ではなかった。  授業を良くサボるらしいけれど、カツアゲはしないし、ケンカもしないし、なにより優しいから。    紅茶を淹れろと言われたあの日から、柊さんはふ らっとこの部屋に訪れるようになった。そして紅茶と殊のほか気に入ったらしいスコーンを強請られる。  別に脅されているわけでもないため、カツアゲではないとは思う。    あの後、床に散乱したものを一緒に片づけてくれて、その上、手当てまでされて…。  弱った所を助けられた鶴のような気分であり、危険な香りのする人物とはいえ、来るなと言えるわけがなく、反対にいつでも来て下さいと言ってしまったのは自分なのだ。 「今日は何された?」 「…ゴミが上から降って来ました」  ぶ、と噴き出して、柊さんは僕から距離を取った。 「シャワーは?」 「……残念ながら、浴びてません。…更衣室で服隠されたことがあったから…」 「ふーん。で、その時どうやって帰った?」 「夜までそこで隠れて……タオルだけ巻いて帰りました…」  柊さんは僕の回答に「バカじゃねーの」とけらけらと笑う。  実のところ、犯罪者扱いはまだ続いている。けれど、僕が余りにも反応しないし、竜ちゃんとヒカル君にも近寄らないから、徐々に収まってきてはいた。今まで僕から竜ちゃんに近づいたことなんてなかったのだから、当たり前なのだけれど。    それにこうして柊さんが笑うのを見るとなんだか嬉しくて、変わらずここに居場所があるから、嫌がらせもそれほど苦にはならなかった。  ただ、竜ちゃんの言葉を思い出してしまうと胸が痛くて、涙が出てしまう。竜ちゃんが僕の事を本当は邪魔だと思っていたって知らされたことが、無性に悲しくて。 「…あ、手はちゃんと洗いましたからね」  ふと、言っておかないとせっかく作ったスコーンを捨てられてしまうかも、という心配をしたけれど、柊さんは気にも留めずスコーンを口に運んでいた。 「それはさっき見た。……あのさぁ、嫌とか思わねぇの?」  その問いに僕は顔を上げた。  柊さんは僕を見てた。いつもみたいに口元に笑みを浮かべて。 「…分からないです…。多分もっと辛いことがあったから、…感じないのかもしれません…」 「――北條、だよなぁ。あいつ、旧校舎に良く来てたじゃん? なに? おまえ、なんか弱みでも握ってた?」 「…そ、そんなわけないじゃないですか。僕はただ待っていただけです…」 「あーそぉ。じゃぁ、尽くす系のセフレだったわけか」 「…え?」  意味が分からずに僕が柊さんの顔を見つめてると、柊さんのそのきれいな形の口からとんでもない言葉が飛び出てきた。 「セックス、してたんだろ? 旧校舎に部室とか確実にソレ用だし」    『セックス』なんていう卑猥な単語を聞いたせいで、顔に熱が集まってくるようだった。 「未成年なのにそんなことしません!」  セックスは大人の恋人同士がするものであり、恋人でもない竜ちゃんと、しかも高校生である僕ができるものではないのだから。  かぁっとなりながらも、そう大声で答えて、またやってしまったと口を塞いだ。    柊さんは怒ることもなく、珍しく目を見開いて、瞬きを何度か繰り返した。 「マジかよ…」   心底呆れた、という様に溜息を吐いた柊さんは少しの間考え込むようにしていたけれど、立ち上がって「ついて来いよ」と言った。  その顔には小さい子が何か悪いことを思いついた時のような、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。    

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