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三、好きな人の精液は苦い 後

   柊さんは見かけによらず信用できる人だ。  第一印象で決めるのはやっぱりよくないということを実際に経験した。竜ちゃんが僕に嘘をついていたことがわかってショックだったけれど…。  柊さんが僕に本当の事を教えてくれた日から、柊さんが来た時にはひとりエッチを二人でするようになった。ひとりを二人って表現はおかしいけれど、実際にそういうことだから。  二人でする行為が気持ちよくて、柊さんが来るのを毎日楽しみにしていた。それに僕は柊さんの事が好きになってしまったみたいだから。  でも…僕は竜ちゃんの事が好きなはずなのに。二人も同時に好きになるなんて、僕はいけない子なのかもしれない…。 「コーチャ入れて」  僕が俯いていると、柊さんの声。  柊さんは少し我が侭な気はするけど、僕にはそれが心地いい。 「どの紅茶がいいですか?」 「おまかせ」  僕ははい、と頷いて、柊さんが一番好きなスコーンに合う紅茶を入れることにした。 「竜ちゃんとはどういう関係だったわけ?」  どうしてそんなことを聞いてくるのか不思議に思いながらも、僕は竜ちゃんの事を思い出して少し感傷的になった。 「…僕は幼馴染だと思ってたけど…、竜ちゃんはそうは思ってなくて」 「んで、ストーカー扱い?」 「…そう、みたいです。…でも、…僕から追いかけたりなんてしたことないです……」  ふんと、柊さんは鼻で嗤った。  自分が嗤われたのかと思ったけど、柊さんは痛んだ金髪の毛先を無表情に見つめながら長い指で弄っていて、僕に向けたものではなかったみたいだった。  それにホッとしたけれど、竜ちゃんの事を柊さんが良く思ってないように感じて、僕は何とかして竜ちゃんの事を好きになってもらおうと話を続けた。だって、竜ちゃんは決して悪い人ではないのだから。 「で、でも、竜ちゃんは本当はいい人で、僕が知らないことも良く知ってて、いろんなこと、僕に教えてくれるんです。…だから頼もしくて…」 「ふーん。それで好きだって勘違いしてるのか」 「…か、勘違いじゃありません!」 「なんでそう言い切れるんだよ」 「だ、だって…、ペニス触り合ったら気持ちよかったから!」  僕が必死になって勘違いじゃないっていう証明をしようとしてるのに、柊さんは真顔で僕をじっと見つめてくるだけだった。   「そ、それに、竜ちゃんの精液はすごく苦かったし…」  柊さんは固まったまま、ちょっと呆けてるような気がする…。僕が竜ちゃんの事好きすぎて呆れているのだろうか。  「…なぁ…、そのペニス触り合ったらっていう下り、分かり易く説明してくんねぇ? それに精液が苦いって話も」 「説明!? …は、恥ずかしいよ。さすがに柊さんでも僕…」 「いや、コトに及んだ内容を話せって言ってるわけじゃねーって…。ペニス触り合って気持ちィことが、どうして好きと繋がるのかって話」 「そ、そんなの…気持ちよかったら好きな証拠でしょ? それに好きな人の精液ほど苦いって、柊さんが知らないわけない、ですよね?」  そうだよ。僕よりも確実に詳しそうな柊さんが知らないわけない。柊さんとして気持ちよかったから、僕は柊さんのことが好きかもしれないってわかったのに。   「………それ、竜ちゃんから教えてもらったのか?」 「はい」  一旦置いて、はぁぁあ、と柊さんは頭を抱えるようにして盛大に溜息を吐いた。しばらくそのままの姿勢で停止してしまった柊さんを僕は不安を感じながら見つめるしかなかった。 「……そういうこと、か」 「? 柊さん?」 「なんでもねーよ。おまえはここで大人しく紅茶入れとけ。もう竜ちゃんの事はきれいさっぱり忘れろ。その方が良い」 「…で、でも…」 「いいから忘れろ」  ちょっと苛立ったような柊さんの声に僕は頷いた。  怖かったからじゃない。それはきっと僕を思ってくれての事だって、何となくわかったから。  

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