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十一、このドキドキは
ドアノブをひねる音が聞こえて、僕は目が隠れる所まで布団をかぶった。ベッドの端に、部屋に入ってきた人——柊さんが腰かけて、ベッドが沈む。
「碧、どう? 少しは楽になったか?」
「……は、はい…」
ベッドに横になったままの僕の額に柊さんのひやりと冷たい手が触れる。
二人でしていたことがセックスだと知った後、すごく長い間セックスをしてしまった。その疲労からか熱が出てしまって、僕はそのまま柊さんの家のベッドで休養を取らせてもらっていた。
「熱はなし。大事取ってもう一日休むか…」
「…行きます。もう大丈夫だと思うので」
「無理すんなよ。させた本人が言うべきことじゃねぇけど」
「それは…その、僕も…気持ちよくて…」
そろりと布団から目を出して柊さんの顔を覗くと、少し首を傾げながら僕を見下ろす柊さんの周りに光が飛んでるみたいに見えた。
顔が熱い。熱のせいではなくて、柊さんの顔を見ると恥ずかしくて、どうしようもなくなる。
「顔赤くねぇ? 本気で無理すんなよ」
「だ、大丈夫です! これ以上休むと父に心配をかけるので…行きます」
「ま、そういうのがおまえだしな。ガッコ行ってしんどくなったらすぐ言えよ」
「はい…」
寮まで戻るつもりでいたのに、どうしてか柊さんの家に僕の制服があって、柊さんの家から直接学校へ行くことになった。
柊さんは僕の髪をせっかくだからとワックスを付けて整えてくれる。距離が近くてドキドキする。それに気づいてるのかいないのか、愉しそうな表情をしている柊さんの髪型はいつも通りの無造作なハーフアップだ。
柊さんに連れられて家を出て、車寄せに停まっているとても高級そうに見える車に乗り込んだ。運転手付きのようだった。
学園には裕福な家庭から通っている生徒が多いから、見慣れてしまった光景だったけれど、自分が乗るとなればとても緊張してしまう。
それに…。
今日は僕の顔を隠してくれるものがないから、怖くもある。もう少し前髪が長くならないかと前髪を引っ張っていると、柊さんが僕の名前を呼んだ。
「他人の視線が気になるなら、俺だけ見てろよ。な?」
「は、はい……ぁ…」
柊さんの顔がすっと近づいてきたと思えば、ちゅっと音を立ててから離れていった。せっかく治まっていた顔の火照りがまた復活して、僕は熱が早く引きますようにと願いながら俯いた。
こんな状態で柊さんの顔を見つめていたらどうなるのだろう。
車が速度を落として学園の正門前にあるロータリーに滑らかに停止した。運転手さんがドアを開けた途端、甲高い悲鳴のような声が多数上がり、体が竦んだ。どうしてか門の所に多くの生徒が集まっているようだった。
「大丈夫」と一つ頷いた柊さんが僕の手を引いてくれる。
外に出れば、開いた正門の向こうに人だかりができているのが見えた。
柊さんはそんな光景に全く気にも留めず、僕の腰に手を回して、僕の歩調に合わせて一歩一歩と進んだ。
僕たちが門に近づくにつれ、その人だかりは一度酷く騒がしくなったけれど、最後にはひそひそと囁き合うような声だけになった。
その場で僕の支えは僕に向けてくれる柊さんの笑顔だけだった。僕も周りを気にしないように、柊さんの顔を見上げる。僕の顔は真っ赤になっていたと思うけれど。
「あー! 来た来た! 待ってたよ、柊!」
大きく手を振りながら、駆けてくるのは見たことのある人物だった。
——ヒカル君。
竜ちゃんの恋人でそんな名前だった気がする。
でも、どうして柊さんに親しそうに話しかけてくるのか分からなかった。湧いてくる恐怖心に柊さんの腕にしがみ付き顔を隠した。僕がいると知れたら、何を言われるか分からない。
「風邪ひいたって聞いたけど…、——ってその子誰? また連れ込んでたの? そんなこと——」
「うるせぇよ。おまえはあいつらと仲良しごっこしとけ」
「な、仲良しごっこ?! 酷いよ、柊! 僕は柊のためを思って」
「うるせぇ。——行くぞ、碧」
「ちょ、ちょっと…柊!」
キラキラと輝くような美少年のヒカル君を歯牙にもかけず、その横を通り過ぎる。
「ちょっと、アンタさぁ!」
「…っ…」
ヒカル君は慌てて追いかけてきて、僕の肩を掴んで。柊さんが反応しないから、きっと僕に矛先が向いたのだ。
けれど、僕の肩に置かれたヒカル君の手はすぐにパシリと払いのけられた。柊さんによって——。
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