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十二、柊さんは嘘をつかない
「北條、てめぇ…」
「そうだよね! 竜哉がそんなことするはずないよ! 竜哉も柊も喧嘩はやめて、ね? 仲直りしよう?」
「ヒカル。こんな平然と人を陥れようとしてくる奴と仲良くなんてできない。わかるだろう?」
「竜哉…」
竜ちゃんは優しい笑顔でヒカル君を諭すように語り掛けている。
でも僕は信じられなかった。
——柊さんが人を陥れる?
そんなわけない。僕は柊さんが嘘をつかないって知ってるから。
「柊さんは嘘なんて吐かないよ…っ!」
僕は自分が出せる一番大きな声で叫んだ。柊さんがそんな人だと思われたくなかった。
「竜ちゃんとするとすごく痛かったのに、柊さんはセックスは気持ちいいものなんだって、本当のこと教えてくれた! 僕の顔、すごく不細工だけど、柊さんは顔を出していいって、自信を持っていいって言ってくれた! そんな柊さんが人を陥れるようなことしないよ…!」
一気に声を発したせいで、息切れが起こる。肩を上下させて、肺に必死に空気を取り入れた。
すると隣で、ぷ、と柊さんが噴き出した。それから、あはは、と声を上げて笑い始める。
「柊さん…?」
「碧、ホント、おまえサイコーだわ」
「え…?」
ヒカル君も、周りにいた双子とか眼鏡の人もどうしてか目が点になっている。多分僕の表現は間違っていないと思う。
けれど、それとは反対に柊さんはどうしてかお腹を抱えている。
この対極な光景が僕にはよく理解できなかった。
隣でひぃひぃと息も苦しそうに笑っている柊さんに恐る恐る声をかけると、「わり」と息の合間に短く発した柊さんにきゅっと腰を引き寄せられ、ぴったりと体が引っ付く。
「はぁ、笑える…。な? わかるだろ? 碧は自分が酷い顔してるって思っててよ、俺が教えるまで北條としてた行為がセックスだってことも知らなかった。しかも北條が好きだと思い込まされてた。…ま、おまえらが信じようが信じまいが俺はどっちでもいい。俺は碧を信じてる。それだけでいい」
「そ、それ本当に…? 竜哉、どういうこと? ねぇ、ホントなの?!」
「黙れ! 俺がそんなことするはずないだろう。そんな奴の——」
「なあ、碧の今の顔を見て、周りはどう思うだろうな? 北條」
ふん、と柊さんは竜ちゃんを鼻で嗤った。それから周りの面々を見渡してから、行くぞ、と僕の背中をそっと押して、歩くように促した。
一歩踏み出せば、その場の停止していたような時間が動き出し、急に騒がしくなる。
背後で竜ちゃんを責めるような声が聞こえてきたけれど、柊さんは立ち止まらずに前を向いていた。僕がその横顔を見上げていると、柊さんはふと視線を僕に落として、優しく目を細めた。
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