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第4話 セオドリックの不満(現在軸)その1

「風邪をひくよ」  そっと身体を揺すられ、俺は夢の世界から覚醒した。  視界いっぱいに俺の愛する黒色が見えて、俺は破顔した。 「アレク」  僅かに動くと、肩に掛けられていた毛布がするりと床へと落ちる。 「疲れていたみたいだから、しばらく声をかけなかったんだ。さすがに、そんなに長い時間寝てはいないかなと思ったんだけど、結構長く寝てたから起こした。身体に良くないし」  毛布はアレクが用意してくれたのだろう。  椅子から立ち上がり、アレクの目の前まで移動し、アレクの肩を抱き寄せる。 「ありがとう。すまないな、気を使わせて。ルナファイスはどうした?」 「お義母様に預けてきたよ。今日は一緒に過ごす約束だろう?」  照れた様にはにかむアレクに、俺の顔はだらしなく緩んでいる事だろう。  寝所を別にしてしばらく経つが、一週間に一日だけは、俺たちは同じ部屋で寝る事にしている。その日だけは、俺とアレクから、ルナファイスが離れて、俺の家族の所へと泊りに行く。俺たちの愛の行為が、子供の教育に悪いとアレクが言うので、仕方なく寝所を分ける事には同意はした。しかし、そんな事を言ってしまえば、まだルナファイスは幼い子ゆえ、アレクの手を離れず、俺たちは愛し合う事ができない。  ならば、と言う事で、俺がアレクに提案し、アレクはそれを受け入れてくれたのだ。  まぁ、実際は、俺が欲求不満過ぎて、執務室にアレクを連れ込んで行為をしたのが、色々と衝撃的だったらしい。ミスターヴの民は、基本的に細かい事を気にしない為、大臣や弟は何も言わなかったが、比較的真面目なフィオーレの民であるアレクにとっては、あり得ない行為だったらしい。  ちなみにその時、「アレクは、異世界からやってくる神子の騎士を務めていた事もあって、余計にそういったところは潔癖なのかもしれないな」と俺が言ったところ、激しく首を左右に振り、「ミスターヴがおかしいんです!」と憤慨していた。  しばらく拗ねてしまったあの時のアレクの事を思い出して、俺はにやにやと笑う。  アレクは色白なので、頬が桃色に染まるのだが、それがまた幼い子供を思い起こさせて初々しくて愛らしいのだ。 「セオドリック……?」  首を傾げるアレク。この仕草は、昔からのアレクの癖だ。  アレクは決して華奢でもなければ女性的でもないし、性格も女々しい所なんて殆どない男だ。細身に見えるが、脱げばしっかりと筋肉がついている。  清潔感のある上品な顔立ちの青年。それがアレクの世間の評価だ。  本人は自身を平凡と言い、アルファだった頃から自己評価は低かったが、騎士として神子を守っていたことから能力的に優れていたのは事実だ。真正面からアレクと切り結んで、勝つことが出来るのは限られた者だけだった事からも、その実力は伺える。 昔、もてない事を気にしていたが、もてていなかったのではなく、俺と、あいつの幼馴染が徹底的に潰していたからに過ぎない。俺が潰したかったのはアルファやベータの男だけだったのだが、あいつの幼馴染はそちらも潰していたらしい事を最近知った。 あいつの幼馴染は、俺程ではないが、顔も家柄も良い男だった。男女問わず引く手あまただったが、どんな時でもアレクを最優先していた。俺と、そんな男から惚れられていたアレクに、魅力がないわけがない 「ああ、すまない。少し寝ぼけていたらしい」  可愛いアレクを強く抱きしめて、その首筋にそっと唇を這わせながら、俺は囁く様に言った。  アレクは、困った様子で笑みを浮かべるが、俺を拒むことはなかった。おずおずと俺の背中へと回された腕で、強く抱きしめられる。 「ここでは、駄目だよ?」 「分かっている」  本音を言うならば、俺としては今ここですぐにでも抱きたいのだが、後でアレクが口をきいてくれなくなるのは大変困るので、俺は暴走できない。  それに、焦ることは無いのだ。なにせ、この一日だけは、臣下も俺の所に絶対に来ない決まりになっている。ただでさえ、寝所を別にされているあげく、一日の蜜月すら邪魔されるなど、俺が許せるわけもない。元々は、別々で寝る様になった後、アレクやルナファイスにあたるわけにいけないので、俺は日ごろの鬱憤は臣下や弟で発散していたのだが、日が経つにつれて、どんどん荒れる俺の姿を見た臣下たちが、俺の限界を感じた事で、俺に提案して、現在に至る。 なので、明日の正午までは、俺とアレクの時間は誰にも邪魔されることは無い。 肩を抱き寄せて、俺は自室へとアレクを連れて行った。 「んっ……ふぅっ」  自室へと入り、俺はアレクを抱きかかえて、ベッドへとそのまま飛び込むように縺れ込んだ。何かを言おうとするアレクの唇を、自身の唇で塞ぎ、早急にアレクの衣を剥いでいく。  鼻にかかったようなアレクの声は色っぽくて、俺のソレは既に半分勃起していた。  性経験は豊富な俺は、基本閨では余裕があると思うのだが、相手がアレクだと、そんな悠は微塵も吹き飛んでしまう。口づけていると、頭の中がふわふわになって、アレク以外が目に映らなくなるのだ。  ヒート中でもないのに、アレクと愛し合う事以外を、すべて排除してしまいたくなる。  こんな風になるのは、アレクにだけだ。 「アレクの肌は本当に綺麗だな。しっとりしてて、白くて」 「ん、そんな、っん」  今更何を言っているんだと、きっとアレクは言いたいのだろう。  もしくは、もう何度も聞いた、と怒っているのかもしれない。  褒めると真っ赤に染まる身体が見たくて、俺は普段からアレクをべたべたに褒める。誤解しないでほしいが、お世辞ではなく、心からの本音だ。 「ああ、可愛い」  可愛いが過ぎて、俺の思考回路は良く停止し、潤んだ瞳で下から見上げられれば、理性など吹き飛ぶ。 婚姻後。本能ではなく理性の中まぐわった日に、ヒートが始まってしまい、俺は相当にアレクに無理をさせた事がある。あれは、抱きつぶしてもおかしくはない激しい行為だったが、鍛えられたアレクはそれらの行為をかろうじて受け止める事ができた。 ただ、俺はそれを超えてアレクを求めてしまい、十日間程、アレクを離さなかった。理性は一切残っていなかったので、その後に弟のギースが寝所に踏み込んで強制的に止めてくれなければ、どうなっていたのか正直恐ろしい。 俺はアレクを愛しているから抱いているのであって、性欲処理に使いたいわけでは当然ないのだが、あの時はアレクとの性行為が長期出来ない期間後だったので、暴走してしまったのだ。 最低な話だが、アレクと結ばれる前までの俺は、不特定多数に発散していたため、その手の欲望は何とか抑えられていた。相手の事を傷つけたことは無かったと思うが、かといって労わった事もなかったと断言できるくらいに、半ば事務的な行為だった。愛がないゆえに、多少相手に無理をさせても心は痛まなかったし、しかも、アレクの事を抱いていると自分を騙さないと、途中からは抱けなくなっていたのだから、自覚しているもののあらゆる面で最低な男だと思う。 アレクを抱いてからは、もちろん誰とも関係を持ってはいないので、当然俺の欲望はアレクに全部向かう。 一応、今は、なけなしの理性で抑えているつもりなのだが、それでも俺の行為はかなり激しいらしく、終わった後、アレクはいつもぐったりとしている。 ――実際、今、俺の理性は消し飛びかけている。  アレクの衣をすべて寝台の下に放り、俺は自身の衣も全部脱ぎ捨てる。  触れても居ないのに、俺のモノはもう完全に勃起していて、正直すぐでもアレクの中に入りたいくらいだが、ヒートでもない今の状態では、自然に濡れる事はあり得ない為、そんなことはできない。  身体中に口づけて、舐めますように舌を這わせると、アレクのモノもたちあがっていく。 「セオドリック……っ、ん、そんなに舐めるな……っ」  恥ずかしそうに身を捩るが、逃がす気は無い。 「おしゃべりな口は閉じさせよう、か」  興奮でかすれた声で、俺はそう言うと、噛みつくようにアレクに口づけた。  舌を入れて、アレクの舌に絡めると、アレクが逃げようと身を捩ったが、俺とアレクの体格差でアレクが逃げれるわけがない。身長はそこまで離れてはいないが、体重は軽く見積もっても二十キロ以上は違うのだから。  次第に、抵抗はなくなっていき、アレクは俺の愛撫をただ受け入れていく。  それから、しばらくたって。 激しい口づけで、目がとろんとしているアレクを見下ろしながら、俺はぺろりと己の唇を舐めた。 「今日は、激しくするからな」 アレクの愛情は疑ってはいないが、きっと俺は拗ねているのだと思う。 ――そう、寝所を別に、と言うのは、俺にとってはかなりの一大事であり、辛い出来事だったのだ。

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