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断罪エスケープ①
【それでも、あなたは隠し通せますか?】
「汚点おてんとは、よごれたところ。しみ。 不名誉なことがら。きず。それをする人に不信をもたらす行為。泥でつけられた傷。形が不規則なしみ。汚れた、または変色して見える。酸化によって起こった金属の表面の変色。失敗または不足。恥辱や汚名の象徴。不名誉な状態。それが失敗の原因となる、あるいは、その効力を減少させる計画または理論の法的文書の欠陥……、っんな、ダラダラと書かれたってわかんねぇよ!」
重圧を感じながら、俺は手元の分厚い辞書をバタンっと閉じた。何度声に出して音読しようが、全く理解出来ない。一つの単語にこれだけの意味があるのか!と嫌になる。こんなものを部屋の中で読んでいたら、俺は動かないブリキの人形になっていただろう。
唯一の救いというのは、ここが鮫島宅の屋上だということだけ。広々とした俺だけの空間。独り、青空教室を開いたのは良いが、快晴では無く曇っている為、青空では無いということだけは確かだ。快晴なんて久しく目にしていない。別に梅雨の季節になったわけでは無いが、どういうことなのか、全く天気が安定しないのだ。
「どっこいしょ」
こうやって大の字に寝そべったところで日焼けなどしない。最近、着々と自分がダメな人間に成り下がって行っているのを感じている。家事は勿論、しっかりと日々熟しているし、多栄子さんの料理教室にも通っているわけだが、何かがおかしい。俺は、このままで良いのだろうか?
先日、自分から鮫島に愛の告白的なものをしてしまったのだが、あれは勢いとか、情緒不安定だった所為というのがある。告白をしたからと言って鮫島の態度が良くなったわけでも無い。寧ろ、悪化している気がする。昨日の夜なんざ、特に酷かった。確か、深夜だったか?
何をイライラしていたのか、先に寝ていた俺をベッドから引き摺り降ろし、「近寄るな」だの「黙れ、何も言うな」だのと一人で安眠を確保しやがった。俺が居なけりゃ碌に眠れないだろうと思っていたが、最近はそうでも無いらしい。
そういえば、よくよく思い出せば二日前にも、おかしな事があったな。鮫島が風呂を洗っているのを見た。血迷ったのかと思ったんだが、その後も皿を洗ったり、洗濯機を回したりと……、もしかして……俺から仕事を奪おうとしているのか?んじゃ、俺は要らないってか?
別に拗ねているわけじゃない。そこんところをハッキリさせて欲しいだけだ。不要になったのなら、不要だと言ってくれれば、それで良い。健気なの察しろよ。あんたから言ってくれなければ、俺からは聞けない。
「……っ」
眩しくもないクセに眉をひそめ、目を細めてみた。奴の本音なんざ、聞き出す方法は無いんだろうな。
いや……、一つだけ方法はあるかもしれない。ただし、無謀なことかもしれないが。呆れられること間違い無しの方法だ。もしかすると、怒られるかもしれない。初めて鮫島の怒鳴る姿が拝めるかもしれないな、こりゃ楽しみだ。
よし、そうと決まれば早速準備を、と思った瞬間だった。何やら、向こう側の路地が騒がしい。隣の建物の所為で良く見えないが、声で人が移動しているのが分かった。
此方に来る!
身体を伏せたまま、屋上の柵の隙間から下を覗く俺。バタバタという足音が複数聞こえ、奴らの姿が見え始めた。柄の悪そうな男が五人、そして、それに追われる……洋世の姿。
「あ……」
思わず声が洩れる。洋世が腕を掴まれ、奴等の一人に捕まったのだ。一体、何をやらかしたのか、勢い良く壁に身体を打ち付けられ、激しく言い争っている。
鮫島を呼んできた方が良いのだろうか?
そう思い、そろりと立ち上がった時、俺は凄まじいモノを目の当たりにしてしまった。それは、ほんの一瞬の出来事。気付けば、五人の男が地面に倒れていたのだ。
独りでに五人の男が地面とお友達になる訳が無い。洋世だ。彼女が目にも留まらぬ速さで奴等を倒したのである。護身術なんてモノでは無い。素人の俺でも、あれは何かの訓練を受けた人間の動きだと分かった。
洋輔とは?洋世とは?一体、何者なのか。謎は深まるばかりである……。
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