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第3章 王の息子⑧

 ◆ ◆ ◆ 「……っ、抜けよ……!」  俺の中に自身を沈めたまま、ラウルは一向に動こうとしない。机に伏せるように上から押さえ付けられ、俺自身も動けない状態だ。 「四回目だ」  後ろからラウルが俺の耳に低い声で吹き込んでくる。一体、何を数えているのか。 「……っ、意味分かんねぇこと、言ってんなよ?」  横目で奴を睨み付ける。今、自由に動くのが両目しかないのだ。俺の両腕は、後ろからラウルの両腕が押さえている。 「気付いていないのか?」  そう尋ねる声音は驚愕というより、俺を馬鹿にしているようだった。 「はぁ?」  イラつき、顔面の筋肉が小刻みに動くのが自分でも分かった。もしかすると、額にも血管が浮き出ているかもしれない。 「これで五回……、貴様が堪え切れずに私を締め付けた回数だ。いや、締め付けている、と言った方が良いか?」 「なっ!ふざけんな!」  一瞬で全身がブワッと熱くなった。暴れようにも人間の俺が狼人の力に勝てるはずもなく、どうにもならない。これは確かに痛みよりも堪え難い責め苦だ。  俺の身体は一度でもラウルに抱かれ、奴との快楽を知っている。本能で奴を求め、勝手に腰を振ろうとするが、それを俺は必死に理性で抑えつけているのだ。 「くそっ!抜けよ!」  こんな奴に良いようにされて堪るか!  両方の拳を震えるほど強く握り、俺は奴を怒鳴りつけた。 「ほう?抜いて良いのか?」  俺とは違う余裕を持った声が俺の中から自身をずるりと抜いて行く。焦らすように、ゆっくりと。 「……っ、ぁ……くっ」  思わず声が洩れ、歯を食い縛ったが、もう遅い。 「なんだ?今の声は」  低く囁き、ラウルの舌が俺の耳を責める。ザラザラとした舌の感覚が移動する度に、背筋がゾクゾクし、肌が粟立つ。 「……うるせ……ぇよ」 「それで?」 「は?……ぅあ……っ」  ラウルのやつは始終乱暴過ぎると思う。張り詰めた屹立を押し込んだまま、俺の身体を仰向けにし、上からまた押さえ付けてきた。 「それで、調べ物は上手く行ったのか?」  で、また動かねぇのか、くそったれ。 「し、知らねぇよ!ひとの調べもんなんかに興味は────」 「馬鹿者、貴様の調べ物だ」  ラウルの視線が先程まで俺が登っていた梯子に向かう。その瞳の動きは俺の視線を奪った。俺はラウルの金色の瞳から目が離せなくなり、気付けば、奴も俺の瞳をジッと見つめていた。 「……私は幼い頃に総ての痛みを失くしたが、未だに自分の心には逆らえない」 「何言って────」  突然、俺の右手を取り、ラウルが頬を寄せてきた。そして、静かに目を閉じる。 「私は貴様の強く優しい心に惹かれた。貴様に惚れた」 「っ……!」  心臓が爆発するかと思った。俺は一体、何を考えているのか。一瞬でも、奴のことを愛おしいと思ってしまった。本当に、本当に、本当に馬鹿だと思う。人間が狼人なんざに……。いいや、その逆も然りだ。  ただ、奴の行動は先程読んだ狼の本に書いてあった。目を閉じたり、目を逸らしたりする、それは相手を信頼しているという証拠である、と。 「返事は不要だ」  そう雑に言い捨て、ラウルは静かに俺から離れて行こうとした。 「っ……ぁ、ま、待て……」  息を詰めながらも俺が止めると、ラウルが俺の言葉に疑問を持った表情をしたのが分かった。  こんな想いは今だけだ。今だけだなんだ、と自分に言い聞かせる。そうじゃねぇと、言えるわけがない。 「ぬ、抜くな……」  俺が、そう言った瞬間、甘い匂いが強くなった。部屋の空気がすべてラウルのフェロモンに満たされかのように。いや、侵されたかのように。 「か、勘違いするなよ?俺はただ──……っあ!」  急に奥を強く突かれ、言葉に出来ないほどの衝撃が背筋を駆け上がっていく。自分が何と言おうとしたのか、一瞬で分からなくなった。いいや、声に出したは良いが、もしかすると何も続く言葉を考えていなかったのかもしれない。 「う、ぁ……っ」  いくら我慢しようと思えど、ラウルの律動に合わせて喉の奥が鳴るのを抑えることが出来ない。身体に生まれた熱は、徐々に徐々にその温度を上げていく。  執拗に穿たれる内壁が、痙攣しているのが分かった。いつになったら、ラウルは口を開くのだろうか。いつになったら、俺はこの快楽の波から解放されるのか。 「はっ……あ……ッ」  はち切れそうなほど熱を溜め込んだ欲望に体内を掻き回され、頭の中が霞みがかっていく。自分ばかりが快感に溺れ、みっともない姿を晒してしまっているような気がしてならない。  甘い香りにぼんやりとしていたが、次第に、こいつより先にイクのは御免だ、という気持ちが込み上げてくる。  どうにか、奴を先に……、そう思った時だった。 「っ!な、……ん!」  今まで触りもしなかったくせに、突然、ラウルのデカイ右手が俺の昂りを握り込んできた。  熱を持った金色の瞳に心を読まれた気分になり、俺は奴から目を逸らした。俺のこの行動は逃げを意味していたが、奴は別の意味に捉えたらしい。 「ぁあ……っ」  誠心誠意イカせてやる、みてぇな雰囲気で手慰みに扱かれ、思わず、高い声が洩れた。激しい律動に身体の下の机が軋む。その音さえも、今は……。 「あ、ぁ、あ……っ!」  目の前がチカチカと明滅する。 「……ッ……」  ラウルが俺の目の前で息を詰めた。奴は俺の中で欲望を爆ぜさせたのだ。その理由は俺が奴をキツく締め付けてしまった所為で、いま、その瞬間に自分が果ててしまっていたことに気が付いた。 「貴様は私の物だ」  高貴な瞳が乱れた呼吸で言葉を紡ぐ。 「なっ────」 「私は……貴様の物だ」  まだ言うか!と言おうとして、そんな言葉で遮られた。耳を疑うことしか出来ない。信じることなんざ出来ない。一国の王が、狼人の王が、ただの人間なんざに、ただの人間如きに己の身を差し出すなど……。

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