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第1話 千紘side
この世界には6つの性別があった。
男女の他に、アルファ・ベータ・オメガ。その順番で優劣がついており、俺は最も下のオメガ。
そんなオメガは就職するのも難しい。
3ヶ月に1度訪れる発情期になってしまうと、仕事どころか私生活もままならなくなる。
他にも理由はあるけれど、1番厄介な理由はそれだろう。
けれど、その問題を解決する唯一の方法があった。
──白樺 学院。
全寮制の男子校。ここに入学し、卒業したオメガは、ちゃんとした職に就けるらしい。それは国が保証しているらしく、全国のオメガがその高校を受験する。その為に倍率は引くほど高い。
そして、そんな戦争にも似た受験を勝ち抜いた俺──松舞 千紘 は今日、白樺学院に入学した。
「気を付けるのよ。発情期 に入ったら、部屋の鍵は必ず締めること。わかった?」
「うん、ありがとう母さん。」
寮に荷物を運んで引越しは完了した。
寮ではそれぞれの部屋の中にお風呂もトイレもある。ただ少し狭い。ベッドを置くと殆ど幅が取られてしまった。
「じゃあ帰るわね。······いつでも帰ってきていいからね。」
「そんなすぐに帰らないよ。でも······ありがとう。気を付けて帰ってね。」
母さんを寮の前まで見送り、部屋に戻る。
俺はまだ発情期が1度も来ていない。
だから、残りの3年間ももしかしたら来ないまま、学生生活が終わるかもしれない。それなら万々歳だ。
ここの寮は性別により建物が違う。
オメガはオメガだけ、ベータはベータだけ、アルファはアルファだけが暮らす寮で生活をする。
寮の中でなら万が一オメガが発情しても、周りに居るのはオメガだけだから、襲われたりすることも無い。安心で安全な設備だ。
部屋の前まで来ると、そこには1人の生徒がいた。「こんにちは」と声を掛けると、大袈裟に肩を震わせて、振り返る。
「こ、こんにちは······」
「そこ、俺の部屋なんですけど······何かありましたか?」
「あ、いや······名前が、気になって······」
「名前?」
部屋の外にはその部屋でクラス生徒の名前が書かれたプレートがぶら下がっている。
俺の名前はわかりやすい名前だから、気になるも何もないと思うんだけど。
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