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愛されたい
***
目を開ける。
ぼんやりと天井を眺めた。
今、何時だっけ。
あれ、何してたんだっけ。
考えていると、暗かった部屋に光が入ってきた。
ドアを開けて立っていたのは彰仁君だ。
「あ、おはようございます」
「……おはよ、う……?」
声がガラガラだ。
びっくりする俺の前に水が差し出される。
「飲んでください。そのあとお風呂に行きましょう」
体を起こして受け取った水を飲んで、コップを返す。
スムーズに声が出るようになった。
「彰仁君、あの……今、いつの何時?」
「土曜日の朝九時です。」
「……何で?」
「は?忘れたんですか?……発情期だったから仕方ないのか……?」
ボソボソと何かを言いながら彰仁君は隣に座り、腰を撫でてくる。その手が俺の項を撫でて「うひっ」と変な声が漏れた。
「覚えてないですか?俺と番になった事。」
「っ!」
「貴方に発情期が来たんです。」
「ひ、発情期……」
抱きしめられて、頬にキスをされる。
あれ、よく見たら俺全裸だ。
「お風呂入りましょうね。立てそうですか?」
「立てるよ……っ!」
布団にくるまり、床に足をつけて立ち上がる。
「うわぁっ!」
「あーあ」
すぐに床に座り込んでしまった。
こんな筈じゃないのに。
「まあ、一週間ヤリっぱなしだったので仕方ないですね。腕、俺の肩に回してください。」
「う、うぅ……恥ずかしい……」
そんなこと平気でベラベラと言わないでほしい。
恥ずかしくて穴があったら入りたい。
「どこも痛くないですか?」
「……はい」
「……番になるの、嫌だった?」
寂しそうに聞かれて慌てて首を左右に振る。
そんな事ない。寧ろ番になれて嬉しい。ただ……
「三十のおじさんの発情期なんて嫌だろう……?」
「え、何で?凄く可愛かった。覚えてないと思うけど、優一さん、何度も俺に『愛してる』って言ってくれたんですよ。」
「ひぇ……っ」
「それに『もっと』とか『足りない』とか、極めつけは『赤ちゃん欲しい』ですよ。可愛すぎて堪えるのがどれだけ大変だったか分かります?」
「……すみません」
無意識にそんな事を言っていただなんて。
でも、無意識の方が本音の時があるし、実際俺のそれは本音だと思うし。
「なので決めました」
「……何をでしょうか」
彼は突然自分の中で勝手に何かを決めることがある。付き合う時だってそうだった。
「次の発情期で孕ませます」
「へ……?」
「覚悟しておいて下さいね。愛してますよ、優一さん。」
そんな甘い甘い、土曜日の朝だった。
愛されたい 了
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