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第9話

「ごめん、春馬さん。驚かせちゃったかな」  自分では取り繕ったつもりであったが、バレバレだったようだと春馬は首をすくめる。 「ううん、大丈夫です。ちょっと、ぼーっとしてたから」 「隣、いいですか?」 「えっ、あっどうぞ」  自販機脇に設置された、公園に置いてあるような、三人掛ベンチの端に座っていた春馬だったが、体を縮こまらせ肘おきにぶつかりつつ、スペースを空けた。 「俺そんなに面積取りそう?」  春馬の様子に苦笑しているのは、この漫喫でバイトをしている昴であった。 「えっ?違うよ。僕シャワー浴びたばかりだから、くっついたら熱いと思って」  慌てて答える春馬の様子に、おかしそうに目を細めた昴は、わざと春馬に体をくっつけるようにして、ベンチに腰を下ろした。 「本当だ、春馬さん暖かい、てゆうかいい匂いするね」  本当、無防備だし可愛い、と言う台詞は胸のうちに止め、昨晩から気になっていた事を昴は尋ねてみる。 「もしかして春馬さん、家出中だったり、誰かから逃げてたりする?」  突然の昴の質問に、春馬は飲んでいたミルクティーを詰まらせる。 「うっ、ごふッ、ごほッ ごほ」 「春馬さん。大丈夫?」  激しくむせる春馬の背中を撫でながら、やっぱり訳ありなんだと昴は察する。 「ごめん、大丈夫。それより、どうして僕が家出中だなんて思ったの?」  訝しげに昴を見上げた春馬だったが、咳き込んだせいで顔は真っ赤だし、涙も滲んでいる。まるで震えるチワワが目をうるうるさせているようで、抱き締めて家に連れ帰りたいと、本気で昴は思った。 「昨日、俺が受付してる時にさ、春馬さん探してる人が来たんだよね」  昴の言葉に、春馬の顔色は一気に真っ青になっていた。

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