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第246話
――というか、一体何から聞けばいいんだろう……。
これでもアクセルは、兄に愛想を尽かされたのではないかと思って、かなり真剣に悩んだのだ。ピピに慰められなかったら、きっと一晩もたなかった。それだけ傷ついたのに、今更それを「わざとだった」なんて言われても、すぐには心の整理がつかない。
かと言ってそれを責めたりしたらまた喧嘩になりそうだし、これ以上兄とすれ違うのは嫌だし……。
そんなことを悶々と考えつつ、家に帰りついた。中に入り、リビングに落ち着いてからもしばらく無言で、アクセルは間をもたせるためにわざとゆっくり茶を淹れた。
「……どうぞ」
「ありがとう」
カップを差し出したら、兄はにこりと微笑んでそれを受け取った。温かいカップを両手で包みながら、兄がチラリとベランダの方に目をやる。
「ねえ、あの木彫りはお前が作ったの?」
「え? ああ……」
昨日初めて作ったうさぎの木彫り。完成したまま窓際に置きっぱなしにしていたようだ。そう言えば、削りカスもベランダに残ったままである。後で掃除しなければ……。
――あの木彫りを作ったのが、遠い昔のように思える……。
一気にいろんなことが起こり過ぎたのかもしれない。ピピを山に送り返して、死合いをこなして、ロシェと共に山に入って、オオカミ神に追いかけられて、兄に助けられて……。
小さく溜息をついたら、兄が空気をぶち壊すようにこんなことを言い出した。
「このお茶、美味しいけど甘みが足りない気がするね。ここにハチミツ入れたら美味しくなるかもよ。どう思う?」
「え? あー……まあ、そうだな……」
この状況でハチミツの話ができるなんて、図太いというか何というか。時々、兄のメンタルはどうなっているのかと不思議になる。メンタルがあまり強くない自分とはまるで違う。
「兄上……」
口を開き、何か言おうとして再び閉じる。そんなことを何度か繰り返した。
だが何かを言わなければと思えば思うほど、たくさんの言葉がせり上がって押し合いへし合いをし、それが喉元に詰まって言葉が出なくなって、頭の中が出口のない飽和状態に陥ってしまう。
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