245 / 2001

第245話

「許せないなんて言ってるけど、私からすればただの逆恨みなんだけどな」  兄が心情を察したように顎に手を当てた。 「かつての彼らの親分……誰だっけな、名前は忘れたけど。そいつが変なことしなければ、私だって粛清なんかしなかったのに」 「変なことって……」 「それはアレだよ、大声で言うのも憚られるような乱暴を……」 「……いや、すまない。これは聞かない方がよかった」  大声で言うのも憚られるような乱暴をされたのなら、粛清したくなるのも理解できる。兄の言う事を全面的に信じるなら、逆恨みであることは確かなようだ。  もっとも、逆恨みだろうが何だろうが、恨まれていることは変わりないが……。 「あの、兄上……」  様子を窺うように、アクセルはそっと話しかけた。兄は普段と変わらない様子で、こちらに顔を向けてきた。 「なに?」 「その……いろいろ聞きたいことがあるんだが……」 「いいよ。今なら何でも答えてあげる」 「……そうか」  人気は少ないとはいえ、こんな広場でずっと立ち話をしているわけにはいかない。場所を変えるべく、こう提案した。 「あの、ここじゃ何だからとりあえず家に帰らないか? どっちの家でもいいけど……」 「んー……じゃあ、お前の家に行こうかな。私の家に来ても食べ物がない」 「……また買い出しを忘れたのか」 「そんな状況じゃなかったんだよ」  そう言われ、視線を落として押し黙る。確かに買い出しどころではなかっただろう、いろんな意味で。 「じゃ、行こうか」  くるりと背を向け、住居に戻っていく兄。アクセルも一歩遅れてついていった。家に着くまでは、お互い何も話さなかった。いつもは無言でいても全く気にならないのに、今日ばかりは気まずくてしょうがなかった。  何か話したいと思って何度か口を開きかけたけど、結局何を話していいかわからなくてやめた。聞きたいことは山ほどあるが、それは歩きながらできる話ではない。

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