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第248話
「私は十一歳も年上だったから、何かと『お兄ちゃんなんだから』と言われることが多くてね。いろいろ我慢させられてたよ。大抵はお前を優先してあげたけど、中には譲りたくないことのひとつやふたつ、あった。でも、そんな時でもお前に泣いて駄々をこねられたら私は譲歩せざるを得なかった。今更だけど、そういうところはずるいなぁって思ってたね」
「…………」
アクセルは一度顔を上げて兄を見た。兄は懐かしそうに苦笑しているだけで、それ以上の感情は窺えなかった。淡々と昔の話をしているという感じだった。
それでも、かつての自分がそんな思いをさせていたのだと知って、ほのかな罪悪感が芽生えてきた。アクセルはゴンとテーブルに額をぶつけ、呟いた。
「……すまない」
「やだな、謝らなくていいって。お前も子供だったし、もう二十年以上も昔の話だから、私も詳細は覚えてないしね」
時効だよ、時効……と、再び頭を撫でてくる兄。
二十年以上も昔……だったら、アクセルも六、七歳くらいの子供だった。当時は今のような分別はなかったから、優しい兄に甘えっぱなしだったと思う。わがままも言いたい放題だっただろう。
当時兄は十七、八歳だったから、弟のわがままにいちいち反発することはなかったけれど、内心穏やかでないこともあったかもしれない。そう考えると、今更ながら申し訳なさがこみ上げてくる。もっと兄上の気持ちも考えてあげればよかった……。
「……あ、そうだ」
すると、兄が何かを思い出したように、胸ポケットに手を伸ばした。
「お前の手紙、戻せなくなっちゃって。悪いんだけど折り直してくれないかな」
「えっ……?」
顔を上げてみたら、兄の手には四つ折りの紙が握られていた。もともとハート型になっていたはずなのだが、折り方がわからなかったらしい。
アクセルはのろのろ身体を起こし、手紙を受け取って一度全部開いた。中には自分が書いたシンプルな文章と、棒人間とイノシシのイラストがぐるりと描かれている。
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