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第764話

「い、いえ……そんな。相手があの程度の力量で助かりました。もう少し動きが早くて、慎重な人だったら負けていたと思います。そもそも俺がもっと強かったら、目潰し自体受けなかったと思いますが……」 「それでも、勝ったのは事実だよ。よかったね、おめでとう」 「あ……ありがとうございます」  嬉しくなり、ちょっと俯いてはにかむ。  自分が勝利を収めたことも嬉しいが、それをフレインに褒められるのはもっと嬉しかった。期待にちゃんと応えられたことが誇らしかった。  そうこうしているうちに、オーディンの泉に到着したようだった。高いところから水が流れ落ちているような、滝壺みたいな音が聞こえる。 「はい、到着! 目の前に水が広がってるの、わかる?」 「ええ、水の匂いがしますね。じゃあ、後は俺一人で大丈夫なのでフレインさんは……」 「よし、じゃあ行くよー」 「え? ……おわっ!」  何かと思った途端、フレインがこちらの背中を思いっきり突き飛ばしてきた。  完全に油断していたアクセルは水際で足を滑らせ、泉にドボーンと落下してしまった。 「っ……!」  全身を水が叩き、細かな気泡がぶわっと肌を撫で、バチッと目が開く。目に染みていた粉も泉に溶け出し、ようやく視力が回復した。ディーンの返り血も水に溶け、うっすらと赤く染まっている。 「ぷはっ……!」  水面に浮上し、息をつく。  すると、怪我もしていないのにフレインも勢いよく飛び込んできて、目の前で水飛沫を立てた。  しばらくしてにょきっと顔が現れ、穏やかに微笑んでくる。 「目が痛いのはなくなった?」 「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」 「そっか。よかった」  そう言ってフレインは水中でこちらを引き寄せ、ぎゅっと抱き締めてきた。  ややびっくりしたものの、何だか妙に安心してしまって、アクセルも彼に抱擁を返した。目が見えても見えなくても、彼と触れ合っているととてもホッとする。

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