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第766話
「しかし、身体が覚えているならイチャイチャしたことも覚えているのかな」
「え?」
「ヴァルハラに来てから何度もお前と交わったから、きっとその時の記憶も身体に刻み込まれているよね。私のこと忘れて受け入れづらくなってたら悲しいけど、身体が覚えてるならそんなこともなさそうだ」
「っ……」
「またイチャイチャするのが楽しみだねぇ」
……などと、冗談とも思えない台詞を吐くので、こちらも赤面してしまった。
――身体が覚えているなら、やっぱり一度寝た方が……。
記憶も一気に戻ってくるかもしれない。いつになるかわからない死合いを待つより、そちらの方がずっと手っ取り早いのではないか。
アクセルは思い切って言った。
「あ、あの……! 俺、兄上が相手なら一緒に寝ても……」
「うん? お兄ちゃんと同じベッドで寝たいの?」
「……はい」
「わかった、じゃあ今日は添い寝してあげるね。きっといい夢を見られるよ」
「えっ……!? いえ、添い寝じゃなくて、本当に……」
そう言いかけたのだが、人差し指で唇を押さえられ、それ以上言葉を出せなくなった。
フレインはあくまで穏やかに言った。
「気持ちはわかるけど、それは駄目。お前はまだ私のこと好きじゃないから」
「そんなことないです。俺、兄上のこと好きですよ」
「うん、ありがとう。でもなんか違うんだよねぇ……。どう違うのか上手く説明できないけど、以前と同じ気持ちで『好き』って言ってるんじゃないのはわかるんだなぁ」
「そんなことは……」
「いいんだ。時間は無限にあるんだから、元の気持ちを思い出すまで、私はのんびり待つことにするよ」
「兄上……」
「それより、この後紅葉狩り行く予定だったけどどうしようか。お前、まだ行く元気ある?」
唐突に話題を変えられ、頭を切り替えるのに数瞬を要した。そう言えば、死合いが終わったら紅葉狩りに行くと約束していたのだ。
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