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第828話

「そうだよ。靴底に鉄板が入ってて重くなってるの。片方だけで五キロくらいあるんじゃないかな」 「五キロ? それじゃあ両方合わせて十キロはあるってことか?」 「そ。加えて、武器の先端にも重りをつけてるからね。結構な重量があるんじゃないかなぁ」 「そ、そうなのか……」  十キロ以上の重りを身につけながら、当たり前に行動しているジークが恐ろしい。やはり上位ランカーは足腰からしてまるで違うようだ。 「皆様、お待たせいたしました!」  そこへ、煌びやかな衣装を纏ったユーベルが入場してきた。彼の後ろには、同じく煌びやかな格好をした戦士たちが五人控えている。もっと大人数でやってくるかと思ったので、少し意外だった。 「今宵は我らユーベル歌劇団のためにお集まりいただき、ありがとうございます! 皆様のために、選りすぐりのメンバーを揃えて参りました! きっと皆様にとって忘れられない夜になるでしょう!」  芝居がかった口調で演説しているユーベル。彼にとっては、舞が始まる前の口上も一種のショーなのだろう。  緊張が高まり、すぐにでも彼らに斬りかかりたくなって、どうにかこうにか抜刀を堪える。 「落ち着きなさい。今から興奮しててどうするの」  兄に強く腕を掴まれ、アクセルは我に返った。 「舞が始まったら嫌でも興奮するんだ。興奮をコントロールするのも大事なことだよ」 「あ、ああ……そうだな……すまない」  忠告されたおかげで、少しは冷静さが戻ってきた。  戦士である以上、興奮するのは仕方がないが興奮しすぎるとロクなことにならない。気をつけなければ。 「では、我らユーベル歌劇団の『剣の舞』をとくとご覧あれ!」  ユーベルがリボンのような武器を振り上げた。鉄を極限まで薄く鍛えた特殊な刀だ。手首を少し捻るだけで軌道が変わるので、非常に攻撃が読みづらく回避もしづらい。  ましてや今の自分は十キロの重りをつけている。ちょっとでも気を抜いたら細切れにされることは目に見えていた。  ――生き残りたい……例えズタボロになっても。

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