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第1079話

 兄が治療を嫌がったのは昔の自分に戻りたくないとかではなく、単に弟と離れたくなかった。それだけだ。たった一ヵ月だとしても、連絡も差し入れもナシで離ればなれになるのは、兄にとっては耐え難かったのだ。複雑な理由はない。  ――あまり悪いことばかり考えていると、また兄上に叱られてしまうな……。  自分自身に苦笑し、ネガティブな考えを払い除けた。そして真っ直ぐ隔離施設に向かった。 「……なんか、さっきより警備が厳重になってるような……?」  少し離れた草むらに隠れつつ、正門の様子を伺う。  先程尋ねた時は見張りも一人しかいなかったのに、今は門の両脇を白装束の職員ががっちり固めていた。槍のような武器も持ち、何人たりとも通しません……みたいな雰囲気が滲み出ている。 「えー? なんだろアレ。あんなの二人も立たせて、何か意味あるのかなー?」  身体の大きなピピを草むらの奥に隠していると、ミューがさも不思議そうに言った。 「ああいう、さも『やってます』的なアピール、すっごい無駄だと思うんだよねー」 「いや、普通に警備してるんだろ。怪しいヤツを通さないように」 「いやいや、あれじゃ警備になってないってー。あんなの、突破するのに二秒もかからないよ。時間稼ぎにすらならないよ」 「……そりゃ、ミューにとってはそうかもしれないけどな」  さすがはランキング一位の戦士(エインヘリヤル)である。誇張でもなんでもなく、彼にとっては本当に二秒で倒せる相手なのだろう。戦力としては桁違いに頼もしい。  だとしても、正門で騒ぎを起こすのは得策ではない。 「あまり大事(おおごと)にする気はないんだ。下手なことをしたら、中の兄上が人質にとられてしまうかもしれない。ここはやっぱり、当初の予定通り隠し通路を使って施設に侵入しよう」 「んー、そっか。アクセルがそういうなら正面突破はやめとこうかな。こっそり侵入するのも楽しそうだしね」

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