1142 / 2012

第1142話

「うん、そう。ケイジの特別な修行場にお邪魔してたんだ。相変わらずキッツいけど、いい鍛錬になったよ」 「そうか。ならいいけど、それならせめて一言書き置きしていってくれると助かるんだがな」  そう苦言を呈したら、兄は明るい口調で言った。 「ふふ、心配してるの? 大丈夫だよ、何かあったとしても私は必ずお前のところに帰るから」 「それは……」 「お前と離ればなれになるとね、いつも『早くお前に会いたい』って思うんだ。施設に一ヶ月いた時もそうだし、お前が人質に行った時もそうだった。やっぱり私は、お前なしじゃ生活できないんだな。私の居場所は、お前の隣にしかないんだ」 「…………」 「だから心配しないで。何も書いてない時は、どんなに遅くなっても夜には帰るからさ。約束する」  そんな風に笑いかけてくる兄を横目で見ながら、アクセルは複雑な思いを抱いた。  ――そう言って、帰って来なかったことあったけどな……。  たった一度。生前、前線で戦っていた兄が瀕死の重傷を負った時。その時だけは帰って来なかった。  まあ、あれだけの重傷では帰りたくても帰れなかっただろうが、帰って来るはずの兄が帰って来ず、報告に来た兵士から兄の様子を聞いた時はパニックになりかけたものだ。  そのせいで、今でもわずかにトラウマとして頭にこびりついている。定期的な連絡が欲しいと思うのはそのせいかもしれない。  連絡さえあれば、例え会えなくてもその人は元気で過ごしてるんだなと思えるから……。 「……そんな約束より、書き置きを残してくれた方がずっと安心できるんだが」  気づいたら、そんなことを呟いていた。  アクセルは兄から視線を外したまま、淡々と言った。 「兄上が強いことはわかってる。兄上だったら、何かあっても自力で帰って来られるって信じてる。その一方で、いつどこで何が起こるかわからないとも思う。ヴァルハラにいる分にはそこまで心配することはないだろうけど、それでも一言書き置きは残しておいて欲しい」

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