1144 / 2012

第1144話

「そうだったのか……。いや、すまない……全然知らなかった。やけに勘が鋭いなと思ったことはあるが」 「まあね。メリットは、お前のピンチに駆け付けやすくなることかな。物理的にどうしても間に合わない時はあるけど、それでも何となくの勘で助かったことは何度もあるよ」 「そうだよな……。ちなみに、他の人のことはわからないのか?」 「わからないね。お前以外の人のことは、全くわからない。まあ、他人の動向なんて興味ないし、わからなくても全然問題ないけど」  はっきり言い切る兄。こういうところは昔から潔いなと思う。  兄は横からこちらを抱き締め、穏やかに囁いた。 「いろいろ言ったけど、とにかく私は、何かあっても必ずお前のところに戻ってくるよ。書き置きがあろうとなかろうと、死者の国に落ちようと、何日かかろうと、それだけは絶対だ。生前と違って死に別れることはまずないから、それだけは約束できる」 「……本当か?」 「もちろんだよ。というか、私が『帰らなきゃ』って思うんだ。お前を一人にしておくのも心配だけど、私自身も自堕落な生活になっちゃうんで」 「自堕落、ねぇ……」  それに関しては、あまり詳しいことは聞かないようにしている。聞いたら絶対に気分が悪くなるし、変なことをぐるぐる悩んで悶々とした日々を過ごすに決まっているからだ(兄がジークと付き合っていたことも、セフレをたくさん持っていたことも何となく承知している。……容認できるものではないけれど)。  自虐的に微笑み、兄が言った。 「そんな生活をして、お前に愛想を尽かされたらおしまいだからね。そんな危険は冒さない。ただ、それでも書き置きを忘れちゃうこともあるから、そういう時は鍛錬場か、ユーベルの城か、宴会場か、一人で黙々山登りしているかのどれかだと思って。さすがに黙ってヴァルハラから出ることはないからさ」 「……わかったよ」  やんわりと兄の腕を解き、アクセルも笑みを返した。

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