1145 / 2012

第1145話

 いろいろあった後だから、過剰に心配しすぎたのかもしれない。獣化は完治したばかりだし、当分は平和な日常を送れると考えていいだろう。 「ところで兄上、久しぶりに手合わせしないか?」 「手合わせ! いいね! じゃあ一週間後くらいでいいかな」 「一週間後? 別に俺はいつでもいいが」 「いや、私がよろしくなくて。お昼まで鍛錬してみたけど、このままじゃお前に勝てそうにないんだよね」 「いやいや、さすがにそれはないだろ。一ヵ月鍛錬できなかったくらいで、兄上が俺レベルまで落ちるわけがない」 「お前、それは自分のこと過小評価しすぎじゃない? 狂戦士モードにもなれて、目潰しされても普通に戦えるなんて、かなり上位にならないと無理だと思うよ。変な罠にかかったり、メンタルがやられていなければトップ三〇には入る実力だね」 「そ、そうかな……。それこそ贔屓目の過大評価な気がするが……」 「いやいや、正当な評価だよ。お前こそ、ランクが一桁の上位ランカーと比較して、自分はまだまだだって思ってるだけじゃない? 特にミューは見るからに化け物なんだから、あんな子と比較しちゃいけません」 「……いや、さすがにミューと比べてはいないが」  もしミューに憧れる新人ランカーがいたら、「憧れるのはいいけど、彼みたいには絶対なれないから別の目標を見つけた方がいい」とアドバイスするに違いない。 「まあそんなわけだから、手合わせは一週間待って。まだ調子が整ってなくて、今のままじゃ勝負にならないからさ」 「あ、ああ……わかった」 「じゃ、お兄ちゃんはまた鍛錬行ってくるね。夕方までには戻ってくるよ。サンドイッチごちそうさま。美味しかった」  軽く頬にキスしてから、兄は颯爽と家を出ていった。  またもや家に残されてしまい、アクセルは少し苦笑して呟いた。 「まったく、兄上らしいよな」  でも、調子が戻ってきているみたいで安心した。具合が悪かったり落ち込んでいたりするよりも、自由気ままに振る舞ってくれた方が兄らしくてホッとする。

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