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第1539話*
「……第二死合い、お前はすっごく頑張ってた。あれだけの矢を受けても、相手を倒すまで死なずに戦っていた。それを見てたから、私も一晩くらい頑張らないとと思って一人で家にいたんだよ。本当はジークやユーベルに声かけられたけどね、全部スルーして家に戻ったんだ。それで寂しさ紛れに野菜や肉を大量に切ってたら、たくさんカレーができちゃった。……でもお前はそれを見て、最初に浮気を疑うんだね」
「……!」
怒りながらもどこか悲しげな兄の顔を見たら、違う意味で泣けてきた。
ああ、兄にとっては余程嫌な台詞だったんだな。例え誰に疑われたとしても、弟にだけは疑われたくなかったんだな。
心無い言葉を投げてしまった自分に腹が立つし、兄の気持ちを汲み取れなかったことにも嫌気が差す。
「んっ! ぶ、うぐ……っ」
せめて謝る機会は欲しいと思い、アクセルは一生懸命首を振った。どうにか口枷を外したくて、タオルを強く噛んでみる。
「おや、何か言いたいことがあるのかい?」
「んっ……」
「まあ、ずっと喋れないままなのは可哀想だもんね。そろそろ外してあげようか」
そう言って、兄がタオルを外してくれた。
ようやく口が解放されて、アクセルは何度かゲホゲホ咳き込んだ。口も乾いていたけれど、なんとか擦れた声を言葉を絞り出す。
「ごめ……。兄上の気持ち、ちゃんと考えられていなかった……。余計なこと言って、すみませんでした……」
「……うん」
「それと……死合い後のケアも、ありがと……。刺さってる矢、全部抜いて棺に運んでくれたんだよな……? ほんとに、感謝してる……」
「……そうだね」
兄が軽く額に口付けてきた。そして苦笑しつつもこんなことを言った。
「……まあ、正直浮気を疑われるのは当然かなと思ってた。私にとっては浮気とは言えないことでも、お前にとっては浮気になるんだもんね。家で誰かと食事をしただけで浮気になるのなら、あれだけ大量のカレーが残っていれば疑いたくなるのも当然だ」
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