1736 / 2296

第1736話*

「っ、っ……」 「……アクセル、大丈夫かい?」  半分失神しかけていたところに、兄が優しく声をかけてくる。  こちらを気遣うように頬を撫で、触れるだけのキスを額に落とし、腰もずるりと抜いてくれた。それだけでだいぶ身体が楽になった。 「はう……あ……はぁ……」 「だいぶ無理させちゃったかな。この薬、すっごい強力だからいつもより敏感になっちゃうんだよね。ごめんね」 「…………」  霞んだ目で、アクセルは兄を見上げた。  目と鼻の先に兄の顔がある。子供の頃から憧れ続けた綺麗な顔だ。  その顔が、今は欲望一色に染まっている。目元が赤らみ、官能的な汗を滲ませ、愛おしそうにこちらを見つめている。  そんな顔を見ていたら急に胸が痛くなってしまい、アクセルは両手を伸ばして兄にしがみついた。 「兄上、好き……」 「あ……うん、知ってるよ。私もお前のこと、大好き」 「だ、からもう……どこにも行かないで……ずっと側にいて……。俺のこと、見捨てないで……」 「? 突然どうしたんだい? 私はいつもお前の側にいるじゃないか」 「そうだけど……俺、やらかしが多いから……。兄上を怒らせること、何度もしてるから……いい加減、愛想尽かされてもおかしくないなって、いつもヒヤヒヤしてて……」  死合い前のいざこざもそう。自分が余計なことをしなければ、兄と喧嘩することもなかった。一応仲直りはできたとはいえ、次はどうなるかわからない。  それに……自分がまだヴァルハラにいなかった頃、ナダルとあれこれあったという話は未だに心に引っ掛かっている。  多分ナダルは今回の死合い同様、兄に薬を盛ってわざと敗北させ、娼館に連れ込んであんなことやこんなことをしたのだろう。  薬の強さは今現在身をもって体験しているから、その辛さはアクセルにも理解できる。  身体の疼きは我慢できないけど、嫌いな相手に犯されるのは気持ち悪いし、複数の相手に好き放題されるのも精神的にキツい。  でも自分ではどうすることもできなくて、結局相手の気が済むまでさんざんにやられまくる……。  そんなことが、実際に兄の身に起こっていたのだ。

ともだちにシェアしよう!